ひでシスのめもちょ

今度は箱根登山鉄道に乗ってみたいと思っています

警察署前を無許可で占拠、アメリカ大使館前に数万人集結。香港デモのリアルな現場

香港の「逃亡犯条例」改正案が撤回されたが、大規模デモは収束の兆しを見せない。香港のデモ参加者は一体どういう気持ちで何を求めてデモを続行しているのだろうか。2019年9月6日(金)から9月8日(日)にかけて香港へ行ってきたのでその様子をお伝えしたい。

香港の人たちに共感や連帯を示したい、でも香港の人たちとナショナリティも歴史的経緯も共同体も違うぼくは同じ立場ではいられない、だから彼らと触れ合うのはデモを見に来ている一瞬だけだ。「外国人が海外のデモに参加するのは、内政干渉なのでは」「もし捕まったらスパイ扱いされたりして国際問題になるのでは」というツッコミあると思うけど、グリーンツーリズムのようなものだと理解してもらえるとうれしい。(グリーンツーリズムとは、旅行者が農山漁村に滞在して農漁業体験を楽しみ、地域の人々と交流を図るツーリズムである。グリーンツーリズムだって、農産地が農業で食っていけなくなったときに絞り出す悲鳴のようなものだ)

渡航

2019年9月6日(金)。

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香港エクスプレス 羽田→香港
香港エクスプレスで羽田←→香港の往復便がチケット代・燃油サーチャージその他合わせて3万円だったのでいてもたってもいられず予約してしまった。東京から大阪へ往復するのと同じぐらいの値段しかしない。航空チケットが安いのは香港デモが長引きもう3ヶ月に入った影響……なわけでななくて、そもそも香港エクスプレスがLCCだから安いだけだったりする。

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香港国際空港にはもうデモ隊の姿は見えなかった
8月9日〜14日はデモ隊が空港を占拠していたのでまだ残党が残ってるかな?と期待していたのだけど、特に誰もいない。
インド系の従業員2名画KITCHENって書かれてあるところから姿を表して、「お前荷物持ちすぎとちゃうか? ワシが半分持ったるで」「いやええよ」って英語で話してたのを見て、「アジアの国際都市香港に来たぞ〜〜!」という気分が高まった。

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香港の目抜き通り、旺角駅周辺
香港は古くからの高層ビルが立ち並んでいていい。地代は世界一高いらしくて、例えば写真右手に見えるボロボロのビルでも1住居1億円は下らないと思う。億ションだ。

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安宿が集まる重慶大厦
宿は Booking.com で適当に取ったら、思いがけずあの有名な重慶大厦(チョンチンマンション)の一室だった。2泊2ベッドで1万円ぐらい。当初は2泊で7000円の部屋だったのだけど、あまりにも狭かったので「窓のある部屋に変えてくれないか?」と交渉して追加で200HKDを支払った。

2019年9月6日(金) 旺角警察署周辺でのデモ

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位置関係。旺角警察署は太子駅が最寄り、南に旺角駅、油麻駅、佐敦駅、そしてホテル最寄りの尖沙咀駅の順になっている

始まり

夕方(20時ぐらい)から旺角(モンコック)警察署前で自然発生的に人が集まって警察への抗議活動をやっているという情報をキャッチしたので足を運んでみる。すでに警察署最寄りの太子駅は出入りが規制されて地下鉄では入れない。なので一つ南の旺角駅からアプローチ。今回は届出がされたデモではなく、インターネットで声を掛け合って人が集まったらしい。おかげで公共バスは道に溢れかえった人たちで身動きが取れなくなっている。

youtu.be
市民がレーザーポインタで照らして目潰しをしているのが旺角警察署の建物だ。なんでも、8月31日のデモの帰りに太子駅(旺角警察署最寄りの地下鉄駅)内で警察が帰っていくデモ隊に暴行を加えて「人が死んだのでは」という話になっており、「警察署に監視カメラ(CCTV)の録画を公開せよ」と要求しているらしい。デモに参加している人がぼくに警察が市民に暴行を加えている動画をFacebookを使ってみてせてくれた。彼は動画を解説しながら怒ってた。

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旺角警察署前、太子駅に貼られたデモのビラ
太子駅の駅出入り口は抗議のビラで埋め尽くされていた。

参加者の人と話していると、もはや香港市民と香港警察の信頼関係は完全に破壊されているらしい。今回の一連のデモが起こるまで、香港市民はなんだかんだ言って「香港警察は市民を殴らない」と思っていたんだろうと思う。実際は違ったわけで、警察は催涙弾も撃つしビーンバッグ銃も撃つ。
なんだかこの辺の話は怪しい噂みたいなのもあって、警察の幹部にいる英国人が弾圧を強めてるんではとかなんとか。
www.newsweekjapan.jp

「逃亡犯条例が次の月曜日に撤回されるのにデモをやり続けるの?」という質問に対しては「Too Late」と返された。「『遅すぎる』ってどういうこと? 具体的にはどうしていくの?」との質問には、「状況は変化し続けているのでわからない」とのこと。「香港の問題に興味を持ってくれて嬉しい」とも言われた。

挑発

21時半ぐらいになるとちょっとづつ情勢が変わってくる。今まではただ人が集まって警察署のベランダに向かってレーザーポインタを照らしながら声を上げるだけだったが、ぼちぼちデモ側の黒シャツの人たち(勇武派)がバリケードを作り出したのだ。
youtu.be

自然発生的に集まってきた人たちも、警察署のビルを見つめながら何かを期待しているように動かない。「『何か』が起きるまで解散しないぞ」というような、倦怠感と熱気が渦巻いている。デモ参加者はすでに2ブロック分以上の人数が集まって、一帯の道が歩行者天国になっていた。

黒シャツ隊の人たちは、「何か」が警察署前で起こったときに群衆事故が起こらないよう、参加者が過密になりすぎないように道路の中央分離帯に立ってデモ参加者を誘導していた。ぼくも最前線の雰囲気がそろそろ悪くなってきたので、警察署からワンブロックだけ離れた位置に退避していた。その時、


どうも最前線で催涙弾が撃たれたようで、デモ参加者が急に逃げ出した。群集心理というのは恐ろしいもので、こういうときに集団のみんなが走ると危ないのだけども、やっぱり若干の人が走ってしまう(上の動画も走った部分だけ切り取った)。黒シャツの人たちは手でバッテンの印を作って、「とりあえず止まるように」との合図を出していた。参加者も「止まって!」と声を上げる。

退散

眠いし催涙弾が撃たれたのを確認できたしもういいかな、と思って、南方向へ退散。旺角駅から地下鉄に乗ってホテルに帰ろうかな、と一瞬思ったのだけど、香港警察は前回デモ参加者に対して地下鉄駅構内で催涙弾を発射するという蛮行を行った実績があるので、逃げ道のない地下鉄ではなく野外のバスか徒歩で帰ることに。

実は久しぶりに走ったせいで膝を負傷してしまった。曲げるだけで痛い。勘弁してくれ。旺角駅まで来たので、近くのマクドに入ってミニッツメイドを飲んで休憩した。地下店鋪だから空調は効いてそうだった。焦っていたのでマクドの写真はない。
休憩が終わったのでさて帰るか、と思いつつ店を出ようとしたら、地上へつながる大きな階段はシャッターが堕ろされて封鎖されていた。小さな階段の出口では、マクドの店員が不安そうな顔をしながら外の通りを眺めている。なんだろ〜と思って外へ出てみると、前線が旺角駅まで撤退してきていた。道もいつの間には歩行者天国になっている。マジか。
youtu.be

流石にヤバイので早めに撤退する。とにかく南に歩いて、油麻地駅、そして佐敦駅へ。ここまで来るとまだバスが走っていたので、飛び乗ってホテルへ。

帰還

帰ってからテレビを付けるとニュースになってた。結局前線は油麻地駅まで下がってきていたみたい。早く帰ってよかった。
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あのあと最前線ではわりと元気にやり合ってたみたい。
www.afpbb.com

膝の痛みについては重慶大厦のインド人商人に相談して「ペインキラーだよ」なる精油をもらった。東南アジアの人たちって、タイガーバームもそうだけど、こういう精油好きだよね。

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痛み止めの精油
精油を膝に塗って眠りについた。

後始末

翌日、旺角警察署に再び行ってみることにした。

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デモ翌日の旺角警察署前。「行方不明になった後亡くなった」とされるデモ参加者に対する献花が行われている
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アメリカ大統領戦でオルタナ右翼ミームとして使われたカエルのペペが、今は香港で逃亡犯条例デモに参加している

旺角警察署前の大子駅交差点だけデモの跡があるが、それ以外は普通に日常だった。
面白いのは、アメリカ大統領戦でオルタナ右翼ミームとして使われたカエルのペペが、今は香港で逃亡犯条例デモに使われていること。ミームを上書きする作戦だ。

2019年9月8日(日) アメリカ大使館前デモ

今回のデモはちゃんと届出をしているし、事前に計画されたものだから日程表にも載っていた。


アメリカ大使館は香港島の方にある。地下鉄で中環駅まで移動して、デモの参加列に加わった。

集合・チャーターガーデン付近

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アメリカ大使館前デモ 始点のチャーターガーデン
アメリカ大使館へ声を上げるデモということで、広東語だけではなく英語を使っても行われるのでわかりやすい。

デモの真っ最中

マジで大量の参加者がぞろぞろと道を動いていく。暑い。途中でおじいちゃんが具合が悪くなってて、手を引かれて道から抜けようとしていた。

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手をパーにして掲げるポーズは「五大訴求は不可分だ」を意味する
この手をパーにして掲げるポーズは「五大訴求は不可分だ」という意味を表しているとのころ。『逃亡犯条例(送中法)の撤回』はすでに決まったのだけど、その他に『デモを暴動と呼んだことの撤回』『デモで逮捕された人の釈放』『警察の行為を調査する第三者機関の設置』『普通選挙の実現』がある。日経新聞の記事が詳しい。
www.nikkei.com

とにかくぞろぞろと声を張り上げながら無限に歩いた。警察がいる場所では警察に向かって「黒警!(ヤクザ警察!)」と参加者が罵倒する。やはり警察との信頼関係はボロボロになっている。

デモ参加者の人と雑談をしたのだけど、やっぱりFacebookで出回っている、警察が市民に暴力を振るう動画を見せられた。今回のデモでは、「地下鉄駅でデモ参加者が警察に暴行を加えられて、その後行方不明になっている。死んだのかも知れない」的な、ある種フェイクニュース的な言説をデモ参加者が共有しているようだ。
ただ実際にデモ参加者に死人が出ていることは事実だし、今更フェイクニュースが真実であれ創作であれ関係ないように感じれた。構図は、「警察がヒドいことをしたニュースがシェアされた来た→からデモ参加者が怒っている」のではなく、「デモ隊に警察が暴力的な圧力を加えた→警察と市民の信頼関係が破壊された→からデモ参加者が怒っている」のだ。

デモの帰りに

デモの後はやはりマクドミニッツメイドを飲むに限る。汗もたくさんかいたしね。


で、そのあと地下鉄で帰ろうとしたら、なんか過激派が中環駅で暴れているとのこと。野次馬しに行こう。

出発地で暴徒化する勇武派

中環駅まで遡って歩いていったら、地下鉄の出入り口が破壊されててウケた。


やっぱり数万人レベルの人が集まると「やったるぞ!」勢が出てきて暴れまくりますよね。面白い。

といっても暴れ方はかなり可愛くて、ひととこでオイルライター缶に火を付けてボヤが起きた!と思えば、ババーッと「Press」の黄色いベストを着けた記者が集まっていって写真を取って、3分後ぐらいには消防車が来てボヤを消火する。シャッターチャンスは一瞬だ。
youtu.be

デモ隊も同時多発的に火を着けて物を壊しまくれば収集がつかなくなることは理解しているとは思うのだけども、そこまで「全てを破壊し尽くす」目的でやっているわけではない。所詮小競り合いだ。

今回の数万人のデモ参加者の大半は平和的にデモに参加して平和的に帰っていった。それなのに参加者の99%が体験しない投石や放火の現場に、「Press」の黄色いベスト(これを着ていればデモ隊・警察の双方から攻撃されることはないらしい)を着用して近づいて、バイアスのかからない絵を撮れるのだろうか。統率者のいないデモでこんなにたくさん人が出てきているんだから「やったるぞ!」勢も混じっていて当然だと思う。日本でだって渋谷でハロウィンで軽トラをひっくり返してたじゃないか。むしろ共通の怒りを共有しているデモ参加者の内ほんのひと握りしか破壊活動に勤しんでいない、しかも破壊目的ではなくてアピール目的の破壊活動にすぎないのは褒められたものだと思う。

デモは、引率の先生がいる小学生の遠足ではない。

ちなみに今回のデモはこういうふうに記事になっていた。
www.afpbb.com

香港デモのこれから

参加者たち

学生を中心に若い人が多かった。中年の方やご老人も多少混じっている。ただ基本的に中華系の顔つきの人と、ほんの少しだけ白人が混じっているにすぎなくて、香港のパスポートを持っているはずのインド系の人たちは見当たらなかった。なお香港で家政婦として働いているインドネシア・フィリピン人たちも見かけることはなかった。

人民解放軍は介入するか?

現状をみる限り中国人民解放軍は介入しないと思う。何故なら、現状警察力だけで完全にデモ隊をコントロールできているから。
9月6日の旺角警察署前デモを見ればわかるけども、催涙弾が出ただけでデモ参加者の大半か蜘蛛の子を散らすように退散した。こんな状態で軍の火力を使用すれば国際世論が黙っていないだろうし、そんなリスクを中国が犯すかな?と思う。

デモの行く末は

当初の目的であった「逃亡犯条例改正案の撤回」はすでに成し遂げられた。でもまだデモは続いていて、デモ参加者は「五代訴求」を今後も求めていくという構えをとっている。
やはり逃亡犯条例の撤回が遅すぎたせいで、その間のゴタゴタで政府・警察と市民の信頼関係が破壊されて、まだ市民は怒っているという雰囲気を感じた。

警察の暴力によってすでにデモ参加者側に死人は出ている(ことになっている)。たがデモ隊側の暴力はまだアピールのための破壊活動であって、警察権力を殺すための本当の暴力ではない。
黒シャツを着た勇武派のデモ参加者たちがスモーク張りのハイエースからぞろぞろと出てくるのを目撃したのだけど、彼らがセクト化して内ゲバを始めたりするとマズいと思うけど……。

今回のデモを見学しに行ってみて強く感じたのは普通選挙の大切さだった。人口740万人程度の国で120万人が集まってデモをするようなことが起きたら、普通の民主主義をやっている国だったら一瞬で内閣不信任案が提出されて政権が交代して、法案が撤回されている。でも香港では3ヶ月もデモをやり続けないと、ほとんど自傷的ともいえる破壊活動にまで発展したデモをやり続けないと、条例案の撤回を勝ち取ることができなかった。
5年前の雨傘革命では、普通選挙は親中華のみに立候補を許可するというやり方で骨抜きにされたままだが、このまま五代訴求を押し通すことができるのだろうか。

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Live Free or die. ここにもペペがいた。
旺角警察署前のデモで感じられた「『何か』が起こるまで解散しないぞ」という期待が、倦怠感と熱気と混じり合って香港を覆っている。

著者と語る『ダークウェブ・アンダーグラウンド』読書会

闇の自己啓発会は2月24日、都内某所に集まり、『ダークウェブ・アンダーグラウンド』の読書会を行いました。なんと今回は、著者の木澤佐登志さんご本人が参戦! 最初は緊張していた一同でしたが、おもむろに抜いた歯を見せたり、動画を再生したりして、和気あいあいとした雰囲気で進められました。(ひでシスがサボっていたせいで掲載が遅れました。申し訳ありませんでした。)
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参加者一覧

江永泉(以下江永)
文学理論や文芸批評、やる夫スレやネット小説を読んできた。好きなホラー小説は、双桑綴『釈迦ノ脳髄』。

役所暁(以下暁)
学生時代は政治学などをしていました。ブラック企業を経て現在編集職。好きなライトノベルは、藤原祐『ルナティック・ムーン』。

木澤佐登志(以下木澤)
無職兼文筆家。著書に『ダークウェブ・アンダーグラウンド』。好きなノワール小説はジム・トンプスン『この世界、そして花火』

ひでシス(以下ひで)
農業経済学専攻→インドネシア農村研究→農薬メーカー→ネット起業。好きな女装漫画は『ゆびさきミルクティー

はじめに

【木澤】 ぼくはどういう立ち位置でこの読書会に参加したらいいんですかね?
【ひで】 著者が読書会に参加されると、やっぱり特権的な立場になってしまったりしてやりずらかったりしますか?
【木澤】 あまり特権的な立場から物を言いたくないので補足と言うか、書いていなかったけどこういう話もあるとかそういう話ができれば。
【江永】 エルサゲートの話とかもあると思うので、そういうこともうかがえれば。

概論、本を読んでみた感想

【江永】 そういえば最近、初めて親知らずを抜いたんですが、見ますか? というか、これです。
【暁】 僕も親知らず抜いたな〜。

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江永氏の親知らず
モザイク無し写真はこちらから
【ひで】 おもったよりグロいですね
【江永】 抜いたときについていた血がそのまま乾いた感じですかね。
【暁】 僕は歯茎切開してトンカチ?で歯を割って摘出したので、抜いた歯は凄いことになってました。それと比べると綺麗ですね。
【江永】 そう、歯の状況次第では歯茎切開するんですよね。これの場合は、歯の土台のところがしっかりしていて、口内の肉を傷付ける生え方でもなかったので、虫歯になっていなかったら抜かなくてもよかったかもしれない、と言われました。日々の生活でも、すぐそこにあるのに気付かない、知らないことさえ知らないことってあるのだな、と改めて意識させられて。余計な話をしてすみません。本の話に移りましょう。
【暁】 はーい。雑な感想ですが、読んでみて知らない世界がめっちゃ書いてあったので、この本が出版された経緯とか、どういうバックグラウンドで木澤さんがこういう話を収集されていたのか気になりましたね。
【ひで】 経歴は書いてましたよね。国際経済学科卒。
【木澤】 そこはあんまり繋がっていなくて。もともとはダークウェブの関心からスタートしてて、Noteにダークウェブの記事を書いていたんですけども、そこにイースト・プレスさんが目をつけられて執筆依頼が来たんですよね。それでダークウェブについて調べてるうちに、ダークウェブで共有されている一種のリバタリアニズム思想に興味が出てきた。たとえば、児童ポルノフォーラムの「ペド・エンパイア」の運営者Luxは「私は言論の自由の狂信者だ」って言っていて。ブラックマーケット「シルクロード」の運営者DPRも、自己所有権――リバタリアニズムにおけるセントラルドグマで、自分の身体は他者からの干渉なしに自分で管理するという考え方――の観点から、ドラッグを摂取する自由について説いています。ダークウェブって暗号化技術から成り立ってますよね。その根源をたどるとサイファーパンクに行き着く。サイファーパンクの中心人物にティモシー・メイという人がいるんですけど、その人はリバタリアンであると同時にニーチェを信奉してて、自分の飼い猫にニーチェって名前をつけてるほどなんですけど……。そこでニーチェの超人思想とリバタリアニズムがつながるんですよね。
リバタリアニズムニーチェの思想の親和性ということを考えたときに思いつくのは、たとえばアイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』という小説。アイン・ランド白系ロシア人の家系で、十月革命の後にアメリカに亡命してきて執筆活動を始める、まあ要はバリバリの反共主義者なわけですけど、そのランドの長編小説でその後のリバタリアニズムにも多大な影響を与えたのが『肩をすくめるアトラス』。これは一部のエリート的なリバタリアンたちが一斉にストライキを起こしてどっかの山中に移住して自分たちのコミュニティを作った結果アメリカが滅ぶという話で、アトラスというのはギリシア神話に出てくる天球を支えている巨人。つまり、その巨人であるところの自分たちリバタリアンが肩をすくめたら世界はどうなってしまうのか、という話。他には1997年に出版されてるジェームズ・デビッドソンとウィリアム・リース=モッグによる共著『主権ある個人(The Sovereign Individual: Mastering the Transition to the Information Age)』(未邦訳)という本。これはサイバースペースの勃興とそれに伴う暗号化技術や暗号通貨の登場によって国民国家の役割が衰退して、代わりにテクノロジーを手にした一部のエリート――主権ある個人――が台頭してきてポスト国民国家の世界を支配していくだろう、といった予言的で黙示録的な本。要するにリバタリアンニーチェの超人思想です。ちなみに、この本の熱狂的愛読者のひとりがあのピーター・ティールで、ティールはおそらくこの本に影響された形でPayPalを立ち上げているんです。だから、ダークウェブ→暗号化技術→リバタリアニズムニーチェ→ピーター・ティール→新反動主義といった感じで、一見繋がっていないようでいても、繋げようと思えば繋げられるんですよね。
【暁】 なるほど。流れが少し分かった気がします。ありがとうございます。

【ひで】 暗号通貨技術って、たとえばビットコインとかって取引履歴がコイン内に書いて公開されているんよね。一方で現金の方はトレースできない。だから、木澤さんのおっしゃるように「暗号通貨はリバタリアン」っていうのは直感的ではなくて、現金でやり取りしている現状の国家のほうが税金を取るのが難しくてリバタリアン的だと思うんですが。
【江永】 ビットコインなどが普及すれば、国家による通貨発行権の独占がなくなって、戦争しようにも戦費が調達できなくなり、国家間の戦争が起きなくなるかもしれない、みたいな話が坂井豊貴『暗号通貨vs国家 ビットコインは終わらない』(2019.2,SB新書)の冒頭に書いてありました。木澤さんの説明を聞きながら、個人が国家から自立するというか、国家並みに自律した個人になるというか、何かそういう精神性が、ダークウェブ~新反動主義の繋がりに通底しているものなのかな、と改めて考えさせられました。
【ひで】 なるほど、国によって管理された通貨に対抗するものとしての暗号通貨というイメージなんですね。
nakamotoinstitute.org
サトシ・ナカモトの論文集

【江永】 木澤さんの方で、読者がどういう反応をしているかを知りたい部分とかはありますか?
【木澤】 どこに興味を持たれたのかっていうのは気になりますね。個人的にはダークウェブがメインのつもりで書いたのに、新反動主義とかニック・ランドに注目が集まってる感じがするので意外な感じがしました。
【ひで】 ぼくはダークウェブよりもオルタナ右翼とか新反動主義とかそういうののほうが、ほかではあまり見ない記事なので勉強になりました。
【暁】 自分はダークウェブという響きに惹かれて…(笑) 読んでみたら5章が一番興味深かったです。
【江永】 私は、ニック・ランドが気になっていました。前半の方だと、3章の内容に一番刺激を受けました。こういう実録ホラーと犯罪ジャーナリズムの境界線上のものに関心があって。あと昔、新宿の画廊で、死体写真家(?)の写真というのを買ったこともあったので。そういう設定がつけられた、作り物の写真だったのかもしれませんが。

【木澤】 ISISの処刑動画とかすごいですよ。ポストプロダクションの段階でかなり編集されていて処刑動画とは思えない滅茶苦茶スタイリッシュな仕上がりになってる。
【江永】 映像作品の仕上げ方を知ってる人、クリエイターなり、デザイナーなりが制作に関わっている、ということでしょうか。
【ひで】 動画って光って音が出て絵が動くから、おサルさんでも何でもジッとみちゃうんですよね〜
【暁】 下手な記事を書くよりも動画を作る方がその物の魅力も伝わりやすいし、より多くの人に見られると思うんですよね。
【ひで】 でも動画って文章に比べて作るのにかかるカロリーは大きいですよ。だから魅力が伝わりやすいと言ってもそんなに量産はできない。
【木澤】 エルサゲート(子供にとって不適切な内容の動画が子供向けの体裁で流されてしまうこと)のように既存のパターンを組み合わせて自動生成的に作られる動画もありますよね。「フィンガーファミリーソング」みたいな自動生成で作られた虚無のような数十万本の動画をYouTubeで幼い子供が自動再生機能を使って無限に見続ける、という地獄のような世界が広がっていて。誰がどういう目的で作ってるかわからなくて。
youtu.be
(ひでシスも前職の飲み会の二次会でエルサゲートを見せたりしていました)
【ひで】 たしかにエルサゲートによる半自動生成動画がたくさん見られているというのはありますね。エルサゲートが作られている目的は広告費による収入じゃないんですか?
【木澤】 大半はそうです。だけど中には生身の人間が演じていて、かつ暴力的なものがあったりとか、そのモチベーションがよくわからなくて。
【江永】 子供向け番組っぽい体裁を借りた物騒な作品だと、アニメの『ハッピーツリーフレンズ』(Happy Tree Frends,1999~)とかを連想します。
www.youtube.com
【暁】 子供って虫をいじめたりとか、結構グロいの好きじゃないですか?たまたま目にしてハマっちゃったら怖いですね。
【ひで】 ぼくはエルザゲートで子供に英才教育するの面白いと思いますね。売れ筋の同人誌で抜くことで、世の中の流行りや好みを分かっていくみたいな。

【木澤】 単純にコンテンツとして面白くなくて生産性がないのが問題だと思うんですよね。
【ひで】 たしかにエルサゲートは単純な組み合わせですから面白くはないですが、セイキンの動画みたいな感じで、見続けていると一周回って面白くなってきませんか?
【木澤】 発想が子供と言うよりオッサンなんですよね。『ハッピーツリーフレンズ』みたいな破壊的創造性がないというか。
【木澤】 本当に幼い子供はコンテンツを自分で選ぶ能力がまだないんですよね。YouTubeの操作方法すらわからないから。だから自動再生機能でアルゴリズムが選んでくる動画を親から渡されたiPadで延々と見てしまう。
【暁】 それを規制することってできないんですか…?
【ひで】 YouTubeとしては動画をたくさん見てもらえれば広告で売上が立って勝ちなので、幼児を釘付けにする動画を流し続けるアルゴリズムを“改良”するインセンティブはないですよね。
【木澤】 もっと言えば、作る側も子供に向けてではなく、アルゴリズムに向けて作っている。やたらタイトルを長くしたり、アルゴリズムが拾ってくれるような作りにわざとしてる。『ニュー・ダーク・エイジ』の著者ジェームズ・ブライドルもTEDでエルサゲートについて語ってる動画がネットにアップされてますが、とても面白いのでおすすめです。
www.ted.com
【暁】 視聴者ではなくアルゴリズムに向けて作る、というのがSF感あっていいですね。
【江永】 すみません。さっき自分がイメージしていたのは、3DCGアニメの『ポピーザぱフォーマー』(2000-2001)でした。ごっちゃになってた。どっちも物騒とシュールの一線ギリギリを攻めてる内容でしたけど。

※以下、各章ごとに振り返りつつ、意見交換していきます。

序章 もう一つの別の世界

  • 分断されたインターネット
  • フィルターにコントロールされた「自由」
  • 「唯一にして限界なき空間」
  • 日本での議論
  • インターネットのもっとも奥深い領域

【ひで】 ダークウェブにアクセスしたことのある人!
【一同】 ・・・・・・
【ひで】 っていうのも、表層Webのほうが人が多いし満足してしまうっていうのがあって。
【ひで】 日本でダークウェブに潜っている人たちのペルソナ像ってわかりますか?
【木澤】 ハッカー界隈ではCheenaさんとか。彼はもともとダークウェブにあった某弁護士界隈のフォーラム「恒心教サイバー部」で活躍してた人なんですけど、いろいろあって逮捕されたあとはホワイトハッカーに転身してますね。某弁護士界隈については『ダークウェブアンダーグラウンド』では書きませんでしたが……。
【ひで】 やっぱり某弁護士界隈がダークウェブに潜ってた理由って、違法なことをやってて身元を隠さなければならないっていう外的な要因が主なんでしょうか。
【木澤】 そうです。あと、それこそ三次児ポ界隈とかもそう。でも日本だとセキュリティ意識が低くて、表層WEBで、しかもクレカで買っちゃう人たちが多いんですよね。デジテンツという、その界隈ででは有名なサイトがあって、最初は盗撮とゲイが専門だったんですが、だんだんパンチラ系の年齢が下がっていって、最終的に児童ポルノばかりになった、みたいな。今は名前を変えて児童ポルノ抜きでやってるようですが……。外国の方が児童ポルノに対する処罰が厳しいんですよね。持ってるだけで10-20年とか食らっちゃうぐらい。日本だと単純所持が違法になったぐらいでまだ甘いので。それこそ興味本位で買っちゃうみたいな。
【ひで】 児ポに関しては、ペインが十分に大きいから、外国ではダークウェブが流行ったのかと思いますよね。
【江永】 それにしても、さっきここ(読書会の会場)に移動する道中、暁さんに指摘されて確かにそうだなと思ったことなんですが、某弁護士界隈にせよ、あるいは淫夢界隈にせよ、誰か特定の人々のプライベートを侵害するような要素が中核にある文化に知悉していないと日本のネット文化を語れない感じは、なんなんだろう。

第1章 暗号通信というコンセプト

  • ダークウェブとは何か
  • イメージと実情
  • 国家安全保障局との攻防
  • 革新的な暗号化技術の誕生
  • 「数学」というもっとも美しく純粋なシステムによる支配

【暁】 この章は、ダークウェブの成り立ち、歴史の話でしたね。勉強になりました。後半戦の方が喋りたい人が多そうなので、サクサク進めて行きましょう。

第2章 ブラックマーケットの光と闇

  • 「闇のAmazon
  • シルクロード」の革新性
  • 思慮深きマーケットの支配者
  • DPR逮捕の内幕
  • インターネットの二面性

【ひで】 闇のアマゾンって儲かるんですかね?
【木澤】 シルクロードはかなり儲かってたらしいですよ。
【ひで】 いくらエスクローって言ったって、ダークウェブだと信頼を得られなくないですか?(※取引において買い手と売り手の間にエスクローエージェントと呼ばれる第三者が介在し、代金と商品の安全な交換を保証するサービス。例えばヤフオクでは、まず落札者が代金をヤフオク本部に支払い、商品が落札者に届いて初めてヤフオク本部から出品者に支払われる。)
【木澤】 DPRのカリスマ性というのもあります。
【ひで】 カリスマ性というのは主義主張の一貫性と強固さ、それと……
【木澤】 マルチシグニチャーで技術的に解決した
【ひで】 あ〜それですね。これには膝を打ちました。

【江永】 2章の「シルクロード」の顛末で、皮肉に思ったのは「システムは大丈夫だったけど、人間がだめだった」ということですよね。人間がセキュリティの穴になっていた。

第3章 回遊する都市伝説

【江永】 3章はなんというか、都市伝説と実録の狭間みたいな雰囲気が一番濃いですよね。「スナッフ・ライブストリーミング」の話が気になって。ただ、現に「スナッフフィルム」に実体が認められるのが、2007年の「ウクライナ21」なんですね。それも勉強になりました。
【暁】 報道写真展とか行くと普通に死体写真があるので、スナッフフィルムはそんなに価値のあるものだったのか、という驚きがあります。
【ひで】 ぼくは親族の葬式の動画をインスタに上げたい派ですけど。
【木澤】 スナッフフィルムの希少性は、動画にするために殺すというプロセス自体にあるんです。
【江永】 撮影するために人を弑するのがスナッフフィルムだとすると、J.F.ケネディの映像、ザプルーダー・フィルム(1963)なんかは、撮影者の意図とは無関係にたまたまそこで頭部を銃撃された人の姿を記録した映像という意味で、天然もののスナッフですよね。そこから少し経つとアメリカではベトナム戦争の報道写真が話題になる。エディ・アダムズの撮影した『サイゴンでの処刑』(1968)とか。で、アメリカのホラー映画史を振り返るアダム・サイモン監督のドキュメンタリー映画アメリカン・ナイトメア』(2000)では、先程言及したような写真・映像が、同時代のホラー映画と関連付けられて紹介されています。これを観てると、露悪的に言えば、その頃のホラー映画には、こういう天然もののスナッフにインスパイアされた面もあったのだな、と思わされます。で、これも悪趣味な物言いになりますが、死を報道する写真も一種のスナッフ写真でありうるし、そう捉えるなら、死を報道する機関は自分の手を汚さずにできあがった屍を利用する、フリーライダーなのだと言えるのかもしれません。諸々の敬意や徳を欠いた言い方になりますが。
【ひで】 殺すのは人間じゃないですけど、YouTuberも蟻の巣に溶けたアルミを流し込んだりもしてますよね。
www.youtube.com
(スナッフフィルムを貼るわけにはいかないのでこちらで)
【木澤】 YouTuberでも動画のために人を殺すYouTuberが出てくるんじゃないですか?
【暁】 そういう人ってなんのためにやってるんですかね。
【ひで】 やっぱりビューは稼げるんですよね。そしてそれがお金になる。
【江永】 オリジナリティを演出する安易な方法としては、やはり、タブーを犯すというのがありますよね。
【ひで】 スナッフフィルムって性的興奮のために撮ってるんじゃないですか? 『猟奇エロチカ 肉だるま』とか『手足切断ダルマロリータ JUMP』というAVもありますし。
【江永】 おそらく、性的興奮よりは、タブーを破っているという興奮が大きいのではないかな、と。
【暁】 なるほど。自然発生した死体ではなく、動画のために人を殺すというシチュエーションに滾るというのは、共感はしないけど理解できました。

第4章 ペドファイルたちのコミュニティ

  • 児童ポルノの爆発的な拡散
  • フィリピンのサイバー・セックス・ツーリズム
  • ハードコアな情報自由主義者
  • 知識共有と意見交換
  • おとり捜査
  • その後の議論

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デザートをいただきつつ読書会は続きます

【ひで】 おとり捜査をやっていたという話には震えました。
【暁】 三次元児ポのオリジナル作品を作った人のランクが上がるシステムのサイトはヤバいなと思いました。虐待動画を作る動機が生まれてしまうので。
【暁】 江永さんは一家言がありそうなので感想を聞きたいなと思ってました。
【江永】 いや、ここで紹介されている諸々は、知らなかったことばかりで。
【木澤】 最近のこの界隈での問題っていうのは、女児自身が自分で写真を撮ってアップしちゃうんですよね。最近は主にライブストリーミングですけど。
【暁】 なんで上げちゃうんですか?
【木澤】 承認欲求じゃないですか。ちやほやされたいとか。
【ひで】 それって動画を上げた女児本人が逮捕されちゃうんですか?
【木澤】 海外では本人が逮捕されちゃうこともありますね。高校生が彼氏に裸の写メを送ったら逮捕された、みたいなニュースもあったり。
【ひで】 デジタル写真って劣化なしにコピーできるのが現況ですよね。
【江永】 想像するなら、扶養者に制止されない環境があり、また他に娯楽をもたないような未成年が、手っ取り早くスマホを使って、そういう仕方で承認を得る、みたいなのはありそうに思えます。ちなみに、YouTubeだと、アメリカの未成年で、ティーンエイジャーとか、あるいは年齢一桁くらいからラップのMVをアップロードしてるアーティストが結構いたりします。That Girl Lay Layとか、Brooklyn Queenとか。Baby Erinなどはニューオリンズバウンス系の曲で、ジャンル特有の声のループが破壊力あります。Baby Kaelyなんかは、5歳の頃のMVがアップされてます。とはいえ、いま名前をあげたアーティストは、映像とか音楽とか、ちゃんと制作してるっぽい人たちなんで、扶養者なり後見人なりが、きちんと関わってるんでしょうけど。日本でもMC Limeとか太郎忍者とかが小学生ラッパーとしてMVを上げてますよね。ただ、こういうノリが雑に広まったら、不穏なライブストリーミングも増加してもおかしくはないだろうとは感じます。
【木澤】 今はスマホがあるからどこでもできますからね
【暁】 無料の娯楽で何を選ぶかって大事ですね。ちなみに僕の子供の頃の娯楽は、RPGツクールなどで作られたフリーゲームでした…。ネット上ですら人と関わるのが苦手で、何もかもが自分の世界の中で完結していたので、ある意味救われていたのかな。

【江永】 私は小中学生くらいの頃は新古書店などで、よく立ち読みをしてましたが、動画サイトにアクセスできる環境があったら、動画漬けになっていたかもしれません。で、自分もチャンネルとか持って、個人情報などを自分から流していたかも。
【木澤】 感覚的にはダークウェブ系の児童ポルノの供給源の約半分ぐらいはウェブカム系自撮りという印象がありますね。
【ひで】 女児がTorを使ってるわけではないですから、表層Webで流れ出たものがダークウェブに流れ着いてるっていう感じですよね。
【木澤】 そうですね
【江永】 児童に自己決定権というか、自分の個人情報を管理する能力があるのかどうか、みたいな話になってきそうですね。
【木澤】 自己決定権があるという前提を置いちゃうと、成人と児童との性交や結婚も自己決定権の観点から合法化しなきゃいけなくなるので、線引きが難しい問題ではある。
【暁】 後悔先に立たずってこともあるし、子供のうちにまずいことだよって教育しないとヤバくないですか?例えば、デンマークとか性教育が早い上に充実してるらしいので、性教育が早い国と遅い国で、自撮り児ポの数がどうなのか比較分析すれば、教育の効果が測れそうな気がします。承認欲求そのものもをどうするかということへのアンサーにはならないですけども…。
【ひで】 その比較はできそうですね。

補論1 思想をもたない日本のインターネット

  • 根付かない「シェア」精神
  • アングラ・サブカルとしての消費
  • アメリカのインターネットが反体制的な理由

【ひで】 日本のダークウェブはスレッド式の匿名掲示板だけど、海外ではフォーラムだから識別名はあると。
5ch.net
5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)と
www.reddit.com
Reddit

【木澤】 そうですね
【江永】 大塚英志が何かの対談で、個々が意見をやりとりするインフラとしてのインターネットは整備されたけれど、そこでどう意見を交わして議論して合意を形成するか、そういう技術は洗練されてない。それが日本の現状での課題ではないか、と述べていました。だから、空気なり世論なりだけが大きく扱われて、いわゆるポピュリズムになる、みたいな論調で。

【木澤】 90年代の悪趣味系カルチャーの文脈でクーロン黒沢という人がいるんですけど、彼は過去に海外の初期インターネットにおけるグロ系文化――TasteLess――を日本に紹介してて。今はその人は在タイ日本人向け雑誌『シックスサマナ』を発刊してて、私はそこにダークウェブの連載を持っているという謎の縁があったり。僕の好きな悪趣味系文化人に青山正明っていう人がいて、彼はドラッグ、児童ポルノ、神秘思想、テクノなどに精通していた編集者で雑誌『危ない一号』とかを作っていた。でも結局鬱病で自殺しちゃってるんですよね。僕が今少し気になっているのは、なぜ青山正明は神秘思想やニューエイジに関心を持っていたのにインターネットに行かなかったのか、あるいは希望を持たなかったのか。海外だとニューエイジからサイバースペース思想にすぐ繋がっていく傾向があるのに。つまり、ニューエイジにおける「意識の拡大」や「変性意識状態」をサイバースペースにおける拡大したネットワークにアナライズする流れですね(『serial experiments lain』はわりとこうした流れをちゃんと汲んでるのですが)。このあたりに日本の特殊性があるのかもしれない。ちなみに、『ダークウェブ・アンダーグラウンド』は柳下毅一郎さんの『新世紀読書大全』を意識して書いてた部分があるんですが、その柳下喜一郎さんに発売当初からお褒めいただいたのは嬉しかったですね。
新世紀読書大全 書評1990-2010
【ひで】 うれし〜
【暁】 うれし〜
【江永】 うれし~
【木澤】 海外のアングラな事件やノンフィクションを翻訳して日本に紹介する、みたいなところを受け継ぎたいなあと思ってて。でも読者は新反動主義がどうとか、そういうインテリ系の人たちが思想書として読んでるみたいなので少し困惑してます。偏差値40ぐらいの本を書いたつもりだったので。
【ひで】 ラジオライフとかそういうところで連載すればよかったなじゃないですか。
【木澤】 『週刊新潮』で西田藍さんという方が書評を書いてくださったんですけど、「この著者はネットでは異常でヤバイ人という評判だが…」みたいに書かれてて、これはとても正しくて、異常でヤバイ人間がなんだか異常でヤバイ本を書いた、という認識が正解だと思います。
【暁】 書店では『GAFAを読み解く!』みたいな意識高いコーナーに置かれてましたし、思惑からズレた販売路線になっちゃったんですね…。
【江永】 話が前後しちゃいますが、日本の陰謀論やスピリチュアル系の物言いに対して、せっかく謎の電波とかが話に出てきても、せいぜい電波避け(?)のお守りめいたもの、ヘルメットなどをつくるくらいで、後はなぜか人付き合いや心掛け、生活法や食事法など、心一つ、身体一つで何とかなりそうな話に収斂していって、機械を使うことには総じて無頓着であるような印象を抱いてきたのですが、どうでしょう。
【暁】 確かに。雑な印象ではありますが、テクノロジーに強いスピリチュアル系って見ないですよね。

【暁】 自分がここの補論ですごく共感したのは、アメリカは建国の由来からして独立だけど、日本って戦後の民主化は上からのものなので、自主自立を草の根でやっていこうぜって意気込みがないよねということ。
【木澤】 日本では民主主義もインターネットも外部から入ってきたものとして受け止められている
【江永】 戦前のエログロナンセンスも、割と輸入物由来のカルチャーみたいな感じがします。明治期に精神病理学として入ってきた議論が、大正期には巷間に流布して、昭和期にはエログロナンセンスな小説とかの味付けとして使われてしまう、というような。「変態性欲」とか「変態心理」とかいう言葉が、学問からエンタメにひろまっていく。
【木澤】 そういうサドマゾの文脈が、60年代になると澁澤龍彦とかに繋がって、日本のサブカルや悪趣味系に繋がっていくという側面もありますね。
【暁】 デモとかも輸入された文化って言えるのかな。一揆とかは昔からあったけども(笑)
【江永】 国会図書館のデジタルコレクションで明治期の著作権切れの小説とかエッセイがいろいろ読めるんですけど、当時の女権運動ディスとか、女学生ディスには、Twitterで飛び交う罵言と大差がないという印象をいだきました。
【木澤】 人間の知性は普遍的に愚か、ということですね。
【暁】 この前テレビで見たのが、アメリカで戦車…とまではいかないけれど、いかつい車椅子の人たちが、障がい者の権利向上デモで抗議をして車道を塞いでも、みんな嫌な顔しないで応援してくれるというやつ。一方日本では、飛行機に乗れなかったと抗議した障がい者の人が滅茶苦茶叩かれた。権利を主張・拡張していいんだという文化がない感じがある。
【木澤】 少しズレちゃいますけど、戦車みたいな車椅子ってエンハンスメント(人間強化)ですよね。テクノロジーと機械を使って人間の能力を補助/拡張するというサイボーグ/ポストヒューマン思想。アメリカではノーバート・ウィーナーのサイバネティクス以降、そうした思想は連綿とありますが、とりわけ最近はシリコンバレーでそういった思想が復権している傾向がある。それこそテクノロジーを使って不死を実現するんだ、みたいなプロジェクトにピーター・ティールが出資してたり。
【暁】 僕も自分の脆弱な肉体が嫌いなので、戦車に脳ミソ乗っけたいなってよく思います。
【江永】 戦車じゃないけど、『2025 大阪万博誘致 若者100の提言書』で、パワードスーツ着用の高齢者がブレイクダンスで若者と対決みたいな企画が記載されていたのを思い出します。あの提言書は、本当に、香ばしい。「モブシーンスキル」(MorphThingなどに代表される顔画像合成の技術を指すのだと思いますが……)を使って、「自分の顔と人種が違う人の顔を合成し、あたかも自分が他人種になった体験をする」とか。参照される技術と、その使い方とにギャップを感じ、めまいがします。
【暁】 ざっと見た感じ、人類館事件とかの反省が生かされてなくて「うわぁ…」となりましたね…。
【木澤】 それこそ今の日本の思想界にも言えることで、人文知とエンジニアリングを接合させた言説があまり出てこないという情況に近いのかなと。

【暁】 僕、政治学科出身なんですけども、テクノロジーと政治をつなげるという話は全然されていなかったので、もっと勉強しなければなと思います。
【江永】 以前、暁さんとひでシスさんと読んだ、ギャビン・ニューサム+リサ・ディッキー『未来政府』(2016.9,東洋経済新報社)とかは、実務家の目線でそういう話をしてましたね。
【木澤】 ニック・スルニチェクという左派加速主義の人が『Inventing the Future』という本の中でテクノロジーを政治と繋げて論じてて、たとえば労働の全的オートメーション化によって人間は労働から解放されるべきだし、ベーシックインカムで人々が生活できるようにしていかなければならないと主張している。日本ではテクノロジーと政治をつなげて語るっていうのはあまりないですよね。
【暁】 そもそもパソコン触ったことないような人がサイバーセキュリティ大臣やってる国ですからね。
【ひで】 テクノロジーと政治をつなげるというと、落合洋一なんかじゃないんですか? 人文系ではどういう評価をされているんですか?
【暁】 詳しくないですが、界隈によって賛と否がはっきり別れてる感じです。
【江永】 以前にTwitterでバッシングされていたとき、非難する人たちは「理系の知識を付けた古市憲寿」みたいに扱っていた気がしました。今まで未読だったんですが、最近、読もうと思うようになりました。

第5章 新反動主義の台頭

  • フェミニスト・セックス・ウォーズ
  • 良識派への反発
  • 哲学者、ニック・ランド
  • 「人類絶滅後の世界」
  • 拡散する実験、そして崩壊
  • 暗黒啓蒙(ダーク・エンライトメント)
  • 恋愛ヒエラルキーの形成と闘争領域の拡大
  • 「男らしさ」に対する強迫観念

【ひで】 ダーク・エンライトメントを試しに読んでみたんですが、英語がよくわからなくて挫折しました。
【木澤】 新反動主義は主にブログ界隈で流行ったんですが、わけのわからない秘教的な文章でダラダラと長文を書き連ねるというのが新反動主義のスタイルなんです。 暗黒啓蒙(ダーク・エンライトメント)はまだマシで、とりわけニックランドが90年代に書いていたテクストの英語はかなり電波入ってて、翻訳不可能なんじゃないかな……
【ひで】 なるほど
【江永】 ニック・ランドの論文を試しに日本語にしようと思って、少なくともパッと見では文章が壊れてない「Machinic desire[機械的欲望]」(1993)を冒頭から訳そうとしたんですけど、あれでも自分は心がボキボキに折れました。映画『ブレードランナー』の挿話から始まっているみたいなんですが、なんだかレプリカント(宇宙での作業のために生産された短命な人造人間)が「人工的な死の側から来たインベーダーである」とか、香ばしいパワーワードが並んでいて。語彙は絢爛だけど話の運びが荒々しいというか、あらっぽいんですよね。「煌めくテクノカラーの外宇宙的(extraterritorial)暴力がマトリックスから溢れ出す。/サイバー革命。」みたいな。一応、extraterritorialは治外法権と訳すのが無難らしいのですが、意味の通る日本語にできなかったので字義的にテリトリーの外部だろうと解して「外宇宙的」をあてました。
www.urbanomic.com

【木澤】 「外宇宙からの暴力」というのはもしかしたらクトゥルフ的な文脈があるのかもしれません。なんかフィクションが地の文に侵入してきちゃってるみたいな。こういったフィクションなのか論文なのかわからないスタイルはセオリー・フィクションとか呼ばれてて後継者までいたりするんですが……。
【江永】 これは効くわ〜、みたいな…。
【木澤】 読むアンフェタミンですよね
【江永】 ガンガンキマりますね。そういえば、ニック・ランドの論文が『現代思想』2019年1月号で翻訳されてましたね。タイトルが「死と遣る」で、これも日本語になってますが、いかつい感じでした。
【木澤】 90年代初頭のドゥルーズ論で、まだ論文としての体裁をかろうじて保っている頃のものですね。
【江永】 ざっと眺めましたが、一段落とか、下手したら一文ごとに、よくわからない合成語とか、何を踏まえて書いてるのか明示されてない言葉が出てくる感じがしました。
【木澤】 翻訳者の方の解説が載ってたんですが、「ニックランドの英語は難解でよくわからないのだが…」みたいなかなりぶっちゃけたことが書いてありました。
【ひで】 こういうのって普通の人はよくわからないじゃないですか。どれぐらいの人がわかっているんですか?
【木澤】 新反動主義も一応Redditにコミュニティがあるんですが、登録者数が1万5千人ぐらいいます。
www.reddit.com
【江永】 新反動主義は、国際政治オタクとか架空戦記オタクみたいなものとテック系のものがちゃんぽんになって、人文学っぽい装いでまとめられた、というイメージでした。ウィキぺディアの新反動主義の項目などを眺めていると、技術者や実業家がはまっているっぽいイメージ。
【木澤】 少なくともブログで長文をかける人のイメージ。

【暁】 この章で自分は、ゲーマーゲートのところが興味深かったですね。ゲームにおけるジェンダーバイアスを批判した人がネットで滅茶苦茶叩かれたという話。日本でもこういうのありますよね。でも、そういうゲーム批判が実際にゲームに反映された例もある。異性婚しかできなくて批判されたゲームが、次回作でほんの少しだけ同性婚できるキャラを実装したりとか。まあその申し訳程度感がまた色々なサイドから叩かれたわけだけど、言わないよりは言ってみた方が運営に届く確率は上がるから…。個人的には悲恋エンドや、恋愛・結婚ではない男女の関係性を復活させてほしいんですよね。
【江永】 要望は要望として出したり、作中の要素から道義的な問題を取り出したり、設定を深読みして思考実験したり、それこそ、フォーラムというか色んな意見を出せる場があるといいんですが。ネットの掲示板で色々あるかもしれないけど。掲示板があっても、ユーザー同士で、意見の強引な統一や潰しあいに陥っちゃうと、キツいですね。

第6章 近代国家を超越する

  • 既存のシステムからの脱出
  • 排他性を孕む結論
  • ブロックチェーン上のコミュニティ
  • バーチャル国家が乱立する未来

【暁】 既存の国家に拠らない、ネット上でのブロックチェーン国家ができるかもって話が面白かったです。ブロックチェーンなら手続きや証明とかの手間がなくなって、行政・利用者の手間が省けていいのになぁ。現行の行政って煩雑な手続きに追われてしまって、より良い政策実現とか考える余裕が無いようなので。
【ひで】 市民・マスコミの監視の目があるから、どんどん手続きが煩雑になって、サービスの質が低下していくというのは、誰も幸せにならないですよね。

補論2 現実を侵食するフィクション

【ひで】 TSUKI Projectはすごく面白かったです。
systemspace.link
【木澤】 日本ってそういうのないですよね
【暁】 日本の作品が元になってるのに、宗教に対するアレルギーが凄いからか、日本ではないですね。
【木澤】 あとTSUKI Projectは割とダイレクトにSFを参照している
【江永】 宗教ではないけれど、異世界に転移したり転生したりして、そこから成り上がりするタイプの小説、ある種のなろう系小説とかは、救済感がある気がします。神もちょいちょいでるし、その割には世界の管理とかスキルがどうとか、SFというかゲームっぽい感じもあります。
【木澤】 日本ではTSUKI Projectの代わりとしてなろう系があるのかもしれません。
【ひで】 あと地下アイドルにエネルギーを注ぎ込んでいたりとか
【暁】 そういうコンテンツがまさしく信仰の拠り所で、偶像崇拝の対象なんでしょうね。

【ひで】 童貞救済を掲げるVTuberの『しましろより』は成功はしなかったですね。
【#00】はじめまして!架空の教祖「しましろより」です!【バーチャルYoutuber】 - YouTube
【江永】 教祖の養成とか教義の制作は、難しいですね。何が信じられやすいのかという問題と、何かを信じるとはどういうことなのかという問題が、絡み合ってる気がする。
【木澤】 最近だと地球平面説のコミュニティとかありますよね。地球が丸いというのは実はNASAの陰謀で、本当は地球は平らなんだと主張してるかなりトチ狂った人たちが今アメリカで急増してるらしくて、地球平面説の支持者同士をマッチングさせる出会い系サイトがあったりとか。ネットフィリックスにもドキュメンタリーがあって見たんですけど、これヤバいな〜とか思ったのは、地球平面説の支持者同士で内ゲバがあって、お互いに「アイツはNASAの手先だ!」って言い合ったりとか、陰謀論者同士がお互いにお前は陰謀側だと指弾し合うという地獄的な情況が顕現していてかなり暗い気持ちになりました。
www.netflix.com

【江永】 そういえば、まだ入手はしてないんですが、気になる陰謀論を見つけて。高山長房『人類はアンドロイド!電波によって完全にコントロールされる世界』(2014.5,ヒカルランド)っていう本です。紹介を見る限り、怪電波+爬虫類人+イルミナティの登場する、よくある陰謀論なんですが、「この世はほぼ奴らの作った組織だから、仮面社畜になるしかない。そんな世界でも金を得て楽しく生きることはできる」と、ライフハック本みたいになっていく。
【木澤】 今や陰謀論の世界も資本主義リアリズムなんですかね。しょせんこの資本主義に「出口」はないっていう。なんかどん詰まりな気持ちになりますね。
【ひで】 成功している宗教って勧誘行為がルーチンの中に組み込まれているんですけど、TSUKI Projectはどうなんですかね?
【木澤】 そういう勧誘プログラムはないですね。

【ひで】 この章では、「現実を侵食するフィクション」がおもしろかったですよね。鳩羽つぐちゃんとか。つぐちゃんは2000万円集めてるからすごいですよね
【暁】 西荻窪行きたくなりますもんね。今度ねんどろいども出るので、買おうか迷ってます。
camp-fire.jp

【ひで】 ネットミームに現実が上書きされるという話について、OKサインとかピースサインが意味が上書きされるのがありますよね。
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【暁】 メタ宗教のフライングスパゲティモンスター教も、一部がガチになっちゃったという話をふと思い出しました。
【江永】 ワード・ポリティクス、ではなくて。アプロプリエーション(我有化)と呼ぶのがよいのでしょうか。例えば、「クィア」という呼称が、かつては侮蔑語としてマジョリティから押しつけられるものだったけど、それを肯定的な意味で使いなおす、押しつけられるのではなく、その呼称を、自らのものにして定義しなおす。そういう方法をアプロプリエーションと言ったりすることがあるみたいなので。
【木澤】 オルタナ右翼は60年以降における左派のアイデンティティポリティクスを我有化している側面はありますよね。
【江永】 そうですね。そうしたメソッドを我が物にしている印象があります。
【木澤】 マジョリティ側のアイデンティティ政治というか。左派だったら黒人やLGBTといったマイノリティが自分たちのアイデンティティを主張してきたという歴史があるわけですけど、今や白人が白人としてのアイデンティティを主張するようになってきている。白人というアイデンティティは彼らにとって一番手近なアイデンティティですから。マーク・リラという左派知識人は、リベラル左派のアイデンティティ・ポリティクスの失敗がオルタナ右翼の台頭とドナルド・トランプ大統領をもたらしたと批判してますね。アイデンティティ・ポリティクスは結局連帯ではなく分断をもたらしただけだと。だから、これからはアイデンティティではなく普遍的な価値を打ち出していかないと左派は駄目だと主張している。フェミニズムLGBT理論でも最近は交差性とか言って階級や人種の視点を導入して相対化しようとしてるらしいですけど。
【ひで】 大阪のレインボーパレードに参加したときも、基地問題を言っている人がいました。
【江永】 そこの辺りだと、最近考えさせられたことがあって。日本でアイン・ランドを紹介しているアメリカ文学研究者の藤森かよこは、実は日本で90年代に開かれたシンポジウムに基づくらしい論集『クィア批評』(2005.1,世織書房)の編著者で、この論集には「リバタリアンクィア宣言」というのを寄稿していたりします。
それこそ、元々クィア理論は、ジェンダーセクシュアリティの差異とエスニシティや階級の差異とが入り乱れるなかで、違う人々が連帯できる点、また逆に無理にひとまとめにしてしまうとまずい点を探す、みたいな動きが出発点に含まれていたはずなんですが、さらにそこからリバタリアニズムへと伸びていく方向もあるのか、と。SNS上だと、アイデンティティ政治みたいな話題って、自分の視野に入る限りでは、差別のあらわれを摘発して誰彼のマジョリティ根性を炙り出す、という方面、要するに、敵叩きや裏切者探しにどうしても関心が向きがちだと感じているのですが、それだけではなくて、どんなところにも相応のマイナー性というか、普遍ならざる普遍性みたいなものがあり、それを活かすべく推し拡げるみたいな、仲間づくりや呉越同舟みたいな方面でも、こういう批評理論が、使えるはずなんだよな、と。「リバタリアンクィア宣言」の内容自体は、連帯よりむしろ味方っぽい相手にも議論を吹っ掛けていくような論調なんですが、それを読みつつ、連帯するとはどういうことか、と改めて考えさせられました。

【江永】 そういえば、ニック・ランドから思弁的実在論への流れは、今日、まだ話してなかったですね。
【木澤】 思弁的実在論について簡単に確認しておくと、要するにカント批判から始まった哲学運動。カントは一言でいえば物自体には直接アクセスできないって言った人で、それ以降の哲学では対象は常に主観との関係性の上でしか論じることはできないということになった。こういった立場は相関主義といって、カント以降ポスト構造主義までこのカント主義から完全に脱せていないという批判から思弁的実在論はスタートしてる。ムーブメントとしての思弁的実在論は2000年代以降に出てくるけど、ニック・ランドは80年代後半の時点ですでに「Kant, Capital, and the Prohibition of Incest」という初期の論文の中でカントを批判している。一言でいえばランドは、カント主義における対象=他者を主観性へ還元する表象作用に啓蒙主義以降における帝国主義の端緒を読み取っている。つまりカント哲学のうちにすでに他者の植民地化の契機が存在していたと批判しているわけです。こうした近代を特徴づけるカント主義における相関的循環の<外部>へ突破して他者=物自体へ直接アクセスしようというのがニック・ランドと思弁的実在論者が共に共有しているスタンスと言えるんです。この点から、思弁的実在論と加速主義を架橋する存在としてのCCRUという見方が出てくる。思弁的実在論と加速主義は一部主要プレイヤーが被っていて、それはレイ・ブラシエとイアン・ハミルトン・グラント。ふたりとも90年代にはCCRUに所属していて、その際グラントは加速主義の聖典の一冊とされているリオタールの『リビドー経済』、あとボードリヤールを訳したりしてます。ちなみに思弁的実在論と加速主義を語る上で外せない出版社アーバノミックの編集者ロビン・マッケイもCCRUに所属していました。用語としての加速主義は2008年に批評家ベンジャミン・ノイズがブログ上で提唱したものですが、ムーブメントとしては2010年9月にロンドン大学ゴールドスミス・カレッジにおいて開催された加速主義についてのシンポジウムがメルクマールと言えます。そこでの登壇者の名前を挙げると、マーク・フィッシャー、レイ・ブラシエ、ベンジャミン・ノイズ、ニック・スルニチェクなどで、ニック・ランドの著書『Fanged Noumena』の刊行に合わせる形で開かれたということもあり、ランドへの言及も結構あったようです。
加速主義といえば、シンギュラリティ(人類に代わり人工知能が文明の主役となること)界隈が結構頻繁に『マトリックス』を参照しているんですよね。たとえば『マトリックス完全分析』という、レイ・カーツワイルやニック・ボストロムも寄稿している結構面白い評論集があるんですけど……。『マトリックス』はボードリヤールの『シミュラークルとシミュレーション』を参照しているんだけど、それが結構でたらめで。ボードリヤールは現実はすべてシミュラークル化してて、現実とシミュラークルを区別すること自体に意味がない、なぜなら現実はすでに消滅しているから、ということを言ってるわけだけど、『マトリックス』では現実世界に帰還することができる、レッドピルを飲んで覚醒さえすれば、という話になってる。ここに至って、『マトリックス』は虚構の世界/真実の世界という古典的な二項対立に回帰してて、その二つの世界を媒介するのはレッドピルであり、またそれによって覚醒した超人的な救世主である、という……。このレッドピルというガジェットが、今ではインターネット・ミームとなり、とりわけオルタナ右翼に愛用されているというのは示唆的な話だと思っています。
【ひで】 シンギュラリティってそんなにすぐ来ないでしょ?
【木澤】 レイ・カーツワイル2045年って言ってますね。
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【暁】 結局、理想の社会に近づけるには、ピーター・ティールみたいに何らかの形で財を築いて、自分の信条に近い政治家に投資するしかないんですかね…。それかその社会からExit(脱出)するしかないのかな。世知辛いですね。
【木澤】 ティールはともかく、僕ら一般人はニック・ランドのように上海にExitするか、マーク・フィッシャーのように資本主義リアリズムのもとで鬱病になって消耗していくか(そしてその帰結としての自殺という究極のExit)の二択しかないのかもしれませんね……。
【江永】 ハーシュマンだと、Voice(発言)、Exitの他に、Loyality(忠誠)って言ってましたよね。確か。滅私奉公ではなく、しかし、組織側がExitされたり内部告発されたりしたら現に困るように、組織内の地位なり権能なりを掌握しておく。そこに賭けたい気もします。

終わりに

今回は著者ご本人が参加してくださるという、びっくり企画となりました。なんと、木澤さんは次回読書会にも参加してくださるそうです。次回は『ニュー・ダーク・エイジ』の予定です。

また、木澤さんは2019年5月にまた新しい本を出されるとのことです。今回の読書会でも言及したニック・ランドや新反動主義、さらには加速主義についても掘り下げて書いてるとのこと。
ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想 (星海社新書)
ダークな思想が、現代社会に浸透している。新反動主義とニック・ランドを起点に、最注目の書き手が世界の暗部を縦横に抉り出す快著!

ワクワクが止まりませんね。それでは皆さん、またお楽しみに!

品川の中心で不平等を語る 『不平等との闘い ルソーからピケティまで』読書会記録

品川の中心で不平等を語る 『不平等との闘い ルソーからピケティまで』読書会記録

闇の自己啓発会は品川の某所で『不平等との闘い ルソーからピケティまで』(稲葉振一郎)の読書会を開催しました。以下、その模様を再現していきます。

■参加者プロフィール

ひでシス(以下ひで)

農産物貿易・途上国の農村研究→サーバーサイドエンジニア。在学時代は資本論読書会を行う。著書に『シェア・ユア・ライフ』、『独習KMC Vol.4』などに寄稿。

江永泉(以下江永)

文学理論や文芸批評、やる夫スレやネット小説などを読んできた。『Rhetorica #04 ver.0.0』や、『ボクラ・ネクラ』などに寄稿。

役所暁(以下暁)

政治思想、地方自治論などをやっていました。数々のブラック企業を経て現在編集職。

まずは、本書を読んだ各自の印象などを。

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【暁】稲葉振一郎はデビュー作がオタクの本(『ナウシカ解読 ユートピアの臨界』)だから、失礼ながら色物かなぁと思ったけど、この本はとても読み応えがあった。ある程度の前提知識は必要とされているけど、自分のレベルには合っていた気がする。経済については試験勉強的なテクニカルなことばかり抑えていたのを反省しつつ、政治と経済を体系的に学ぶことの重要性を再認識した感じ。
【江永】稲葉振一郎は経済学の啓蒙書をいろいろ書いていて、『経済学という教養』も読みやすい。あとは『政治の理論』みたいな著作もある。たしかに政治も経済も相互行為というか、プレーヤーが複数いることを前提に考えている点で通じあってる気がする。
【ひで】ミクロの教科書を読むといいですよ。奥野とかマンキューとか。
【ひで】今回の『不平等との闘い』は全体として論の立て方がきれいだった。マルクス好きのひでシスとしては第2章なんかはマルクスの理論をかなり捨象して書いているなという感じはするけど、本として見たときに道筋がきれいなのでシックリくる。
【江永】差し当たり、文系・理系という呼称で、考え方のクセを分けてみる。理系の人はまず定義を覚えてから計算を解く、文系の人はその定義の由縁とか謂れを問うのが得意。稲葉振一郎は学部時代に現代思想を読んでいて、学問的には労働研究に取り組んで、そこから政治哲学・倫理学へ行き着いた人。そういう風にいろいろ領域横断しているからだと思うけど、理系っぽい人と文系っぽい人、どっちの人がどういう説明をして欲しがってて、どういう観点が抜けがちになるのか、というのをわかっていて、そこを補って書いてくれている感じがする。
【暁】そう、自分が突っ込む前に著者が既に突っ込んでるから、隙がないなぁと思った。
【ひで】たしかにマンキューとか奥野でも定義・仮定は置くけど、なぜそうするのかについては分厚い説明は与えていない。というのも仮定をおいた上で計算をしてどういったことが言えるのかを説明するのが主だから。この本はそういった現代の経済学で置かれる仮定がなぜそう置かれているのかについてちゃんと説明してあったので、久しぶりにこういう説明に目を通すことになって勉強になった。
【江永】これ一応ピケティの便乗本なんですよね。もっと早く読みたかった。
【江永】この後に書かれた『新自由主義の妖怪』では新自由主義という用語の内実とか使われ方について経済思想史の観点から解説している。

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読書会の様子です

『不平等との闘い』

目次

■0 はじめに 18世紀のルソーから、21世紀へのピケティへと回帰してみる

ルソー『人間不平等起源論』/スミス『国富論

■1 スミスと古典派経済学

資本主義のもとでの不平等

■2 マルクス 労働力商品

「労働力」の発見/技術革新が失業者を生む?/原因は“資本蓄積”/技術革新の思想

■3 新古典派経済学

民主化の時代の成立/「誰もが資本家になりうる」可能性/「人的資本」という視点

■4 経済成長をいかに論じるか

新古典派はなぜ成長と分配問題への関心を低下させたか/技術革新と生産性との関係

■5 人的資本と労働市場の階層構造

労使関係の変容/「発展段階論」による歴史変化の説明/労働者間の格差は「人的資本」

■6 不平等ルネサンス(1)

はっきりしない「成長と分配」の理論

■7 不平等ルネサンス(2)

「生産と分配の理論」のモデルを考える/格差は温存されるか、平等化が実現するか

■8 不平等ルネサンス(3)

不平等は悪なのか?―ルソーとスミスの対決からピケティへ

■9 ピケティ『21世紀の資本

インフレを重視/「r〉g」は歴史的に常態

■10 ピケティからこころもち離れて

ピケティの論敵たち/論じていない格差問題

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朝食を食べながら話を始めました
*以下、各章ごとに振り返りつつ、意見交換していきます。

第0章 はじめに

【江永】政治哲学っぽい話をフワッとしている。
【暁】ルソーの導入みたいな感じですかね。
【ひで】ぼく啓蒙思想って全然わからないんですよ。啓蒙思想ってなんなんですか?
【江永】イメージとしては「人間には知性がある。知性があるから教育できる。教育でよい人間をつくろう」って感じ。高校の倫理とかでも、ロックは『人間は白紙で生まれる』と述べた、とか書いてありますよね、確か。適切な教育さえ得られれば、同じようによい方向になるはず。なので知識を集めて辞典を作ろう、という動きと一緒に出てくる。
【暁】そしてフランス革命の前ぐらいの、ホップズ、ロック、ルソーあたりが主張していた近代国家の成り立ち・有り様を説明する一連の思想群のことを、(政治分野における)啓蒙思想って言いますよね。
【江永】事典的な説明を調べるなら、スタンフォード大学がやってる、専門家が色んな専門用語について解説しているStanford Encycropedia of Phylosopyとかを読むのが一番いいのでは。
【江永】人間を含む自然というか世界は神が常時ワンオペで運用しているのではなくて、人間にもわかるルールに則ってオートに動いているのだ、という考え方をしてみる。そしたら、神の決めたルールなら変えようとしてはならないし変えられないはずだけど、そうでないものはルールのフリしたマナーじゃないですか。で、有害無益な迷信じみたマナーは変えましょう、というので、啓蒙する。
【暁】ちなみに悪名高いマルキ・ド・サドは実はこの近代啓蒙思想の流れから出てきてる人。今まで自明視されてきた神という権威から離れ、「自然」について考えてみよう、っていう文脈でああいう本を書いた。
【江永】「悪事は楽しい」を自然のルールに最初にぶっこんだら?みたいな感じ。

【ひで】成長か格差かという話がこの本の根幹なってるんですよね。
【江永】ルソーは不平等の起源を所有権制度の確立(それを支える国家権力の成立)に求めました、っていうことらしいけど。
【ひで】スミスは基本的に市場はええもんだよって言ってて、所有権制度とそれを基盤とする市場制度はたしかに不平等をもたらしているのは確かだけども、それによって貧困者の底上げもされているからいいよね、みたいな
【ひで】でも所有権制度が不平等の起源だ!って言って破壊したら、原始共産制になっちゃうよね。
【江永】ルソーはよりましな国家・よりましな社会契約について『社会契約論』で論じているらしい。
【暁】『社会契約論』では、有名な「一般意志」などの概念も出てくるのですが、この解釈については色々あり複雑なので今回は割愛しましょう。

第1章 スミスと古典派経済学

【ひで】スミスは生産要素市場を見出した。スミス以前は労働は個別具体的なものとして議論されていたが、それらを抽象化して議論を始めたのがえらい。
【江永】そういえば、稲葉振一郎の本を読んで初めて、経済学はパイの分け方を議論するだけではなくて、パイを大きくする方法を議論する学問でもあるのだなと意識しました。
【ひで】パイを大きくすることを議論する方法には2つあって、1つは生産に必要な生産要素の組み合わせを最適にすること、もう一つは動的な世界の中で技術革新を考慮に入れること。後者の技術革新については、まだ経済学の中でうまく取り入れられていない。

第2章 マルクス 労働力商品

【ひで】マルクスの新しさというのは何かというと、労働力商品というものを導入したことですね。土地とか肥料とかという生産要素と、労働力商品の違いをマルクスは説明した。マルクスは労働価値説と言って、基本的に価値の源泉は人間の労働だということにしたんです。

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図を書いて説明するひでシス
【ひで】マルクス的な価値観の労働組合の目的をザックリいうと「労働者の賃金を伸ばして、資本家の取り分を減らそうよ」というふうになってる。労働価値説で行くのなら、価値の源泉は労働なので、本で書かれていたような『投下肥料価値』みたいなのは考えることができないはず。こういう考え方は考え方は新古典派的だ。
【ひで】あと本で商品の価格について市場で決まるみたいな触れられ方をしていたけど、マルクスは商品の価格に関して、市場で決まるみたいなことは明確には言っていないはず。
【江永】経済学をやってる人から説明を受けると、この本が各理論を、どう組み合わせて首尾一貫した話にしてるのかというのがわかる。0章の啓蒙思想の話もうまいパッチワークなんだろうと思った。
【暁】自分の大学では、マルクスの経済理論にはあまり触れなかったけども、ここではマルクスを色物扱いせずに長所と短所、その先見性などをフラットに書いてくれていてよかった。基礎教養的に読める。

第3章 新古典派経済学

【江永】新古典派民主化に伴う福祉国家志向を背景に生じたが、古典派経済学に比べて分配の問題に関心が低かった、と。
【ひで】というのも、限界革命(収穫低減とか)が経済学の中であったことで、市場が効率的であればすべてが上手く行く、最大化が最適化であるというのが理論的に示せたため。
【江永】あとは著者曰くの注目ポイントとしては、マーシャルの人的資本というアイディアが入ってきたこと。労働者と資本家という区分が崩れた。
【ひで】労働者は資本家にもなれるんだよと。アイディア次第で、資本市場からお金を借りて、自分のアイディアを市場で試して資本家になることができる。たしかにこの考え方って革命以降・民主化以降っぽいですよね。マルクス以前の時代なんかは貴族階級なり資本家階級というのは固定されていたわけなので。
【江永】かつ、それによって格差もまた緩和されうるというようになったわけですね。
【暁】早く資本家になりてぇ…

第4章 経済成長をいかに論じるか

【ひで】たしかに、古典派とマルクスでは、いわゆる技術革新による経済成長というのは十分にモデル化されていなかったんですよね。マルクスでは技術革新のモデル化は若干やってたんだけど、技術革新によって労働力が節約できて、賃金が下がって、恐慌が起こる、みたいなことしか言ってなかった。
【ひで】古典派とマルクスが、資本家と労働者階級の質的な違いに焦点を当てていたのに対して、新古典派では資本家と労働者を特にわけずに個人の富の連続的な変化に焦点を当てている。
【江永】新古典派も技術革新については、いい感じにモデルに組み込むことができなかった。だから、途上国が先進国に追いつこうとするみたいな事例に代表される、技術が外から降ってくるイメージになる。
【江永】新古典派も、労働者が資本家になれるというアイディアを除けば、定常状態についてのイメージは古典派とそんなにかわらないっぽい。
【ひで】むしろ、理論的に資本家と労働者というのを区別なく個人として扱い、生産の最適化と分配の問題を全く別物として扱えるという定式化がなされたせいで、成長と分配問題への関心が低下した。収穫低減というアイディアで資本労働比率・労働生産性・生活水準が収斂するだろうという予想が出たことで、自由な市場は分配の平等かさえ達成するという考えが生まれた。
【暁】p94-p98あたりの総要素生産性と技術革新の話がよくわからったんですが。
【ひで】技術革新というのは、総要素生産性が前年度に比べて上がること。でも新古典派は未だになぜ技術革新が起こるのかについて有効なモデルを提示できていないということを言ってる。実証研究レベルでは教育投資が重要だよねみたいな話はあるけども、マクロモデルで教育投資と技術革新の関係性を組み込んでみんなが納得できるモデルはまだ提示できていないという状況かな。

第5章 人的資本と労働市場と階層構造

【ひで】第5章は、前半はなぜ労働者が資本家になることができるのか――つまり、誰でも金融市場でお金を借りて事業を起こすことができるというはなし、
【暁】後半は労働組合の話。
【江永】分配問題が階級問題から個人間の所得や富の分配問題へと移行した、と。
【暁】金融システムの発展によって問題の有り様が変わったという話ですね。
【ひで】後半の労働組合の話。マルクスのときの労働組合は、専門職のギルドみたいなのvs資本家の集まりという階級闘争的な側面を帯びていたが、
【暁】現代では企業労働組合になっているので、解雇された人は救えなくなってしまった。
【江永】労働の代替性がなくなってしまった。
【暁】すると労働者側の交渉力が低下しますよね。個人的にはすごくわかるなぁと思います。日本でブラック企業問題とか色々あるから労働組合への期待が高いはずなのに、むしろ加入率はすごく下がって、ますます労使交渉での存在感は低下している。で、ブラック企業は一向に良くならない…
【暁】個人的な体験を言うと、以前は労働組合は政治色が強くて敬遠していた。でもあるブラック企業を辞めるときに、みんな自分をボロ雑巾みたいにしか扱わなかったけど、労組の人だけは親身になって相談に乗ってくれたので、印象が変わった。雇い主と完全にこじれる前に相談すると、ブラック企業がアリバイ作りに置いてるだけの相談窓口よりも余程役に立つ場合もあるというのは、サバイバル技術として知っておくといいかも(余談ですが)。
【江永】マクロレベルでの分配問題への関心が低下すると、個々の企業内での分配に問題が押し込められてしまうわけで、むしろ逆に生産と分配は不可分だという話に逆戻りしてしまう。でもそれが大事だった、みたいな。

第6章 不平等ルネサンス(1) クズネッツ曲線以降

【ひで】クズネッツ曲線――つまり、経済発展の度合いが低い国では格差が大きく、ちょっと発展すると格差が縮小し、もっと発展すると格差がまた拡大してしまうという曲線が発見されて、なんでかな?という話になった。でもなぜかはっきりしない。
【ひで】不平等な国は発展せんのや!っていう人もいるし、経済発展には人々を平等にする力があるという人もいる。
【江永】今までの新古典派も、生産から分配へと結びついているという話をしていたけれども、分配から生産へという話に関しては、クズネッツ曲線をどう解釈するかという議論とともに関心が高まってきたみたいですね。
【ひで】ちなみにこれはひでシスの個人的な意見なんですけども、先進国になるとむしろ格差が広がるのは、労働に必要とされる技能が上がりすぎるからだと思っています。100年前はよくある糸巻きの仕事に就くにはちょっと頑張って仕事を覚えるだけで済んだのだけども、現代においてはプログラマになろうとお持ったらめっちゃ大変。そういう基礎的な仕事に対する要求水準の高まりが、キャッチアップできる人間とできない人間で格差を生み出している気がする。

第7章 不平等ルネサンス(2) 成長と格差のトイ・モデル

【江永】成長と分配の理論における定番のモデルとでもいうべきものが未だ確立していないので考えていきましょうという話。
【暁】数式はブログにアップするって書いてある。今どきな感じがしますね。
【江永】ブログも見なきゃいけないのかな。
【ひで】マクロ成長の理論の話に今から入っていくわけです。この話をするときによく使われる経済主体に対する仮定の方法が2つあって、1つ目がラムゼイ・モデル――つまり無限に長く生きるdinastyが生涯効用を最大化するように動くというのと、2つ目が世代重複モデル――短命な命を紡ぐ者たちが子孫に対して残す資産を最大化しようとするモデルです。この2つの経済主体を作ったモデルに試しに組み込んでみて、最近のマクロ成長モデルのベンチマークを取るという感じです。
【江永】今回はその2つのモデルを、資本市場が完全であるときと、欠如しているときの2パターンで見て、大別して4つの場合に分けているんですね。
【ひで】ぼくはマクロ成長についてわからないので、とりあえず結果だけ見てみましょうか。
【ひで】ラムゼイで資本主義が完全な場合は格差が維持されるけども、それ以外の場合は格差が縮小する傾向にある。ここに生産技術のスピルオーバーを仮定として加えると、どの場合も格差は縮小する傾向になる、ただ格差の縮小する速さと、経済成長率には差が出てきてしまう。
【ひで】資本市場が完全な場合は、格差が縮小するのも早いし、経済成長率は同じでも絶対的な資本量は高くなることになる。これは市場が完全なので当たり前の話なのだけど。
【ひで】かつ、初期状態において格差が大きければ大きいほど、格差が縮小するのにも時間がかかる(当たり前やろ!)。かつ格差縮小に時間がかかってしまうので、その間は経済効率的ではないため、最終的な経済成長率が同じになるとしても、絶対的な資本は格差が少なかったときのほうが大きいことになる。
TODO: 本の図を引用する
【ひで】この本の2つの図を見るときは、図1は最初のA・B・Cの資本が同じ点から出発していることに注目するとわかりやすい。同じ状態から出発しても、資本市場が完全化欠如しているかで、格差が収斂した後の資本の絶対量に差が出てくる。ただ経済成長率――線の傾きは変わらない。
【ひで】図2については、Bは同じだけどA・Cの開き具合が大きくなっているかどうかで最終的にどうなるかを見るとわかりやすい。経済成長率は同じになるけども、格差が縮小するまで資本は有効利用されないので、絶対的な資本量に差が出てきてしまう。
【暁】体感としてはまあそうだよねということだけど、モデル化すると逆にわかりにくくなりますね…

第8章 不平等ルネサンス(3) 資本市場の感性か、再分配か

【ひで】不平等をどうするか! 成り行きに任せるか、資本市場を整備するか、政府からの収奪を許すか。
【江永】政府による再分配についても、フローを再分配するのかストックを再分配するのかで2通りの方法があるらしい。
【ひで】現代的な政府ではフローで再分配してますよね。
【江永】本でも、ストックを一挙に再分配するのは、「あまりに革命的ですので、しばらく考察からは除外しましょう」って書いてある。
【江永】ZOZO TOWNの前澤社長が100万円配ったやつの時にも、やっぱり資本家が財産を再分配しても、恣意的にしか配らないことが明らかになった、だから資本家から金を取って適切に配る国という装置が必要だ、という主意のツイートが4桁ほどRTされててびっくりした。個人的にはみんなそんなヤバいことを考えているのかとビビった。
【ひで】でもこれって普通じゃないですか? 国ってそういうものだと思いますけど
【暁】私もひでシスさんに同意するけど、現実的には国家は適切に分配できていない。例えば生活保護なんかは不正需給よりも、本来需給した方が良いのに需給できてない人が圧倒的に多いとか。そして資本家から税金をたくさん取るとタックスヘイブンに逃げちゃうし。どこまで取ってどのように配るかは難しい課題ですよね。
【江永】これは杞憂かもしれないけど、なんか各所から「資本家を懲らしめてやる!」みたいな気配を感じていて、不穏だった。「今月はたくさん稼いだから今日はおごるわ」って言った人間が叩かれるのか?
【ひで】前澤のやったことは自由財産の処分でしかないからね。
【江永】「租税制度をちゃんと整備しよう」っていう方向性の議論とか、「もっと団体交渉やっていこう」という意識ならわかるのだけども、「やりたい放題やってるやつは叩いていい」だと良くないと思う。
【ひで】人的資本は資本市場に馴染むのか、っていう話がありますけども、馴染まないですよね。
【ひで】というのも大学入試に面接導入なんかは、お金持ちの子供が若いことから海外旅行に連れて行ってもらって豊かな経験をして面接でいいことを喋れるようになったやつが受かるようになるわけで、世の中が全体的にそういう方向に進んできている。
【暁】私みたいにコミュ力低くて記憶力だけが取り柄の人間が、逆転するチャンスがなくなっていっていますよね。
【江永】試験の方が面接より公正でしょという話か。
【暁】大学に超多額の寄付をしている人間の子供を、面接で「人間性」を理由に落とすことができるのかという話もある。
【暁】フランスの大学入試の話もTwitterに出てましたよね。「フランスを見習えよ」というのが、人文学不要論への対抗という形で出てきていたけども、結局ああいう試験を通るには、哲学的な素養を積むことができるような経済的ないしは教養的なバックグラウンドが必要になるわけで、階級の再生産になっているんじゃないか、という点も考慮したほうがいいという話になっていた。
【ひで】ほんとに人的資本はイコール資本になってるんよね。
【暁】この章では「企業がお金を出して留学させた人間が仕事辞めるのを止めることはできない」と書いているけど、一方で某省庁は税金で留学した人間がすぐに転職した場合、留学に対してかかったお金を返せよ、ってのをやっていますね。

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デザートの時間です
【ひで】再分配政策は政治的に選ばれるのかという話。
【ひで】ここで書かれている中位投票者理論によると、政治的に選ばれるはずとなっている。投票者の層として、資本家層と中位層と貧困層を考える。政党として資本家党と貧困党を考える。もし社会が少数の資本家に資産が集まっているという状況なのならば、中位層は相対的に貧困層に近いという状態になるので、中位層と貧困層が貧困党に投票して、再分配政策を行う党が当選するという話。
【暁】今の日本は格差拡大って言われているから、この理論だと民主党系などの貧困寄りの政党が当選するはずだけど、実際は資本家寄りの政党であるところの自民党が選ばれていますね。
【ひで】民主党が当選しないのは、前回政党を取ったときにむちゃくちゃやって、かつ自己批判もしなかったことに国民が懲りたからでしょ。
【暁】それと、本書では経済学的な側面から投票行動を規定しているけど、政治学の分野で見るともっと色々な投票行動論や政党論がある。例えば日本の政党政治は、世界でも特異なものとして分析されていたり。独裁でもないのに一党が政権与党を(たまに途切れつつも)こんなに長く続けるなんて、なかなかできることじゃあないよ、みたいな。はたまた自民党内の派閥が政党のような形で競争して「政権交代」しているという論もあったり…(以下略)。
【江永】高校の政経って単位数が少なくてみんな政治経済学的な知識が少ないのでは。だからなのか、学問的なものの代わりに通俗政治経済論みたいな価値観で生きちゃってる気がする。例えば歴史に関しても、歴史学の中で議論された話の代わりに、百田尚樹司馬遼太郎みたいな小説家に由来する歴史観がなんとなく広まっていると言われたりする。そういう話が、政治や経済についても言えるんじゃないか。
【江永】やる夫スレとか、なろう系小説を読んでいると、そんな風に思う。本当に通俗的だったり、商業は出版できなさそうだったりするような価値観も流布されている。
【暁】一方で中には修士以上出てるやろみたいな人間が書いた物語もあり、玉石混淆ですよね。
【江永】こういう状況は、明治期の啓蒙的な小説とかが読まれている頃と似ているのかも。

第9章 ピケティ『21世紀の資本

【江永】ピケティが不平等ルネサンスにおける実証研究の主導的存在になっているんですね。
【ひで】ピケティの『21世紀の資本』の4つのエッセンス。1つ目は「物的資本の分配問題に再度着眼したよ」。
【暁】政府統計から導き出したんですよね。でも日本政府の統計データってほんとに使えるんですかね…?(笑)
【ひで】ちょっといま統計データの信頼性が問題になってますからね。
【ひで】2つ目。「ちょっと前は格差が少なかった理由は、経済発展の段階が格差の少ない段階だったからという理由ではなくて、ケインズ福祉国家の政策が投票によって選ばれていたからという認識が周りの社会学者と合っている」ということ。で、最近格差が拡大してきているのは新自由的政策が行われているのが理由だということ。
【ひで】3つ目。「インフレーションの再分配効果への注目」。資本家の資産が目減りする。ほかにインフレが何が嬉しいかってわかります?
【江永】借金が目減りすること。インフレするとお金の価値が減るので、借金が実質的に減ることになる。
【ひで】あと消費や投資が刺激される。いま現金を持っている人は、どんどん価値が目減りしていくことがわかっているので、今使っちゃおうってなる。
【江永】4つ目。90年代のクズネッツ曲線に依拠した理論家に対して、実証研究により理論の見直しを迫る立場への転換。ようするに数理モデルとともにシンプルな成長の見通し・対応関係をつけることを断念している。
【ひで】4つ目は2つ目とも対応していますよね。成長モデルを描くことを断念していて、格差の問題は政治の問題だと言っている。
【江永】2つ目と3つ目も関連してるんじゃないですか?
【ひで】ケインズ福祉国家政策は不可避的にインフレーションを引き起こす、というのが1970年台のアメリカの頭痛の種だったので。でもピケティ的には、インフレーションは資本家の資産を目減りさせることで格差縮小にも効いていたと。

第10章 ピケティからこころもち離れて

【ひで】なんで『平等が望ましい』のか、って話をしなきゃいけないんですよね。
【江永】そもそも平等とは何かという話もしなきゃいけない。
【暁】ロールズは無知のベール――自分がどういう立場で生まれるかわからないという仮定をすると、人々はどういう社会を構築しますか?という話。自分は奴隷なんかになりたくないから、最低限の保証があるような社会制度をデザインするのではないかと。
【ひで】ロールズは自由の平等と基本財の分配。
【江永】ロールズはいい話に理屈をつけるために思考実験しているという印象。一方でセンは、いい話がそのまま利益に結びつくと説いているという印象。
【ひで】センは個人の潜在能力アプローチでしたっけ。
【暁】そうそう。センは開発を従来的な工業化の促進という意味だけでなく、自由をも促進し、みんなを物心ともに豊かにしていくより広い概念と定義している。自由は開発の目的であると同時に経済発展に欠かせない手段でもあると。
人が経済的に困窮する原因である潜在能力の欠乏を解消することで、そういう豊かな社会を実現するという感じ。まあ、開発独裁に対するカウンターパートみたいなイメージかな。
【江永】ピケティはロールズとかセンの「平等というのはいい言葉(として使おう)」という前提に乗っかって議論を進めているので、なんのための平等かというところの打ち出しが弱い、ってことなのか。それに対して、この本で紹介されているのだと、例えば功利主義のデレク・パーフィットは「重要なのは人々の間の平等よりも弱者の救済なのである」という優先主義を取っている。道徳哲学者で『ウンコな議論』の著者のハリー・フランクファートは、「ロールズ的な権利保証は平等主義というよりは最低限の水準保証なのではないか」という十分主義を取っている。
【江永】で、どういうことになるのか。えーと、稲葉さんが深読みするところによれば、ピケティの言いたい平等が、弱者救済なのか、公的な政治参加の機会の保証なのかちょっとブレている。そのせいで、資本家からごっそり取るより、中流から広く浅く集めた方がいいじゃん、っていう議論に対して反論できない問題がある、と。
【ひで】最後なんかまとめづらいですね。稲葉さんが書きたかったことをモロモロモロと詰め込んでいるという感じがある。
【暁】センやロールズの説明がかなり短いので、復習して振り返った方が良さそうな感じ。

おわりに

【ひで】う〜ん。最後に「平等化はある程度であれば、成長を犠牲にしてでも追求すべき目標である、しかしそれを説得的に論じきるだけの用意はまだ足りでいないのです」って書いてあるけど、わざわざそういう話をする必要ある? 普通の経済成長モデルを描けば、平等であれば経済成長する過程でもより資本配分が効率的になることが示されてるわけだし。
【暁】この本を読んで、とりあえずピケティを読まなきゃな〜って気になりましたね。
【江永】あの鈍器みたいな本をね。
【暁】この本はピケティの本の前座としてよかったのかもしれない。
【暁】わたし、こういう学部横断的な本って結構好きですね。自分の強いところにも、弱いところにも触れることができたし。
【江永】用語がちゃんぽんになっているわけでもなかったので読みやすかった。自分は用語ちゃんぽんしまくっちゃうので、反省。この本はホントは辞書や事典ともに読むのがいいのかもしれないですね。

【ひで】まぁでもこの本論がキレイで読みやすかったですね。勉強会向きというか。
【暁】勉強会向きですかこれ? エッセンスが凝縮されてるので、本の内容についていくのがメインで、他分野の人たちと読むことで本に対する理解は深まったけども、本の内容に立脚して自分の問題意識を論点にするような勉強会はやりにくかった気がしました。
【江永】さっきの二分法を持ち出して言えば、前者は理系の教科書の読み方、後者は文系の評論の仕方、って感じでしょうか。小説の批評、とか言うと、書かれ方の技術批評もあるけど、割と個々の問題意識を掘り下げるためにその小説をどう使ったのか、みたいな話になりもする。
【ひで】なるほど。ぼくは結構前者の読み方をしちゃってました。

こんな感じで毎月読書会をやっていこうと思っています。よろしくお願いします〜!

住友化学を退職しました

こんにちは。ひでシス、こと、西岡めぐみです。
2017年4月に新卒で入った住友化学を2018年2月末付で退職しました。東京本社に配属されて、海外向け農薬部門で11か月働いてました。忘れないうちに住化についてメモっとこうと思います。

入社した理由

住友化学って知ってますか?
なんでも、国内の化学メーカーでは2位で、3万人ぐらい従業員がいて、創業から100年ぐらいやってて(吉田寮と同じ年では?)、グループ会社が250社ぐらいあって、海外売上高が60%を超えるグローバル企業らしいです。
自動車用のプラスチックからスマホのタッチパネルとか医薬品中間体とかいろいろ作ってて、ぼくは農薬を作る部署にいました。
住友財閥の御三家っていうところにこだわりがあるみたいで、「住友化学の興りは、別子銅山の銅精錬から……」という話を11か月で7回ぐらい聞かされました。

入社した理由をリスト化すると以下の通りです。

  • 社員の人柄がよかった
    • いろんな会社を受けてみましたが、一番性格の良い人たちが集まってるのがここでした
    • 面接の度に交通費をいっぱいくれて、親戚のお金持ちのおっさんみたいな感じだった
  • 学生時代までやってたソフトウェア開発とは別のものに挑戦してみたかった
    • インドネシアに留学してたのもあってか、幸い海外に農薬を売る事業部に配属されました
  • 新卒でしか入れない系企業に入ってみたかった
    • 財閥系って面白くないですか?
  • 生涯年収が高い
    • 新卒の時の給与は月25万円+残業代+ボ1回73万円ぐらいなのであんまり高くないですが、部長になるとボーナスだけで数千万円もらえるみたいですね。いいなぁ
  • IT投資を頑張ってる
    • ERPAWSに載せたりだとかしてて、意識が高そう
      • ERP:購買→生産→営業→販売まで一貫して扱う基幹システム

ぼくにはソフトウェア開発と農業経済学の2つの軸があるんですが、やっぱ農業は地球の表面を直接改造する人類の営み的なアグレッシブさがあって面白いですよね。
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修士号を取ったインドネシアの稲作風景です。残念ながらインドネシアの農薬に関しては、三井化学系のAgriconの方が断然強いんですよね。

退職した理由

個人的にちょっとミスマッチがありました。しっぱいしっぱい。

  • 仕事の一部で疲弊した
    • 大企業特有のセクショナリズムが強かった
    • 同じ会社の中なのに情報を隠したりとか、不利なことは資料に書かずに鉛筆を舐めたりとかそういう仕事をするのがイヤでした。
      • クソデカ企業だと、部署のやりたいようにさせて数字だけ管理する方法でしか運営できないのかもしれませんが、う~ん……。
    • 計器が狂った飛行機ってまともに操縦できるんしょうか
  • 給与が低い
    • 家賃補助もないし、寮は東京本社から通勤時間1.5時間のところにありました。
  • 市場が見えない
    • 端的に言ってワクワクしません
    • 中間財をつくるB2Bメーカーって、間に入ってる加工メーカーが企業努力をするので、市場のニーズがよく見えなくなっちゃうんです
  • やっぱり「ものづくり」をしたかった
    • メーカーでも事務職だど仕事内容はものづくりじゃないんですね
    • ぼくはコード書いて動くものを作ってる方が楽しかったことに気付きました

住友化学の良かったところ

やっぱ振り返ってみるといいところでした。化学系の後輩に就活で激ススメしたりしてます。

  • キャリアパスが明確
    • 1年目は部署(住友化学本体)の業績管理
    • 2年目は関連会社も含めて管理
    • 3年目から実務担当になって海外と実際にやり取り
    • ……
    • みたいなキャリアパスが見えてました(突然やってくる配置転換はリスクだけど)
      • 人間を教育する気概がありますね
  • 終身雇用制
  • 学歴採用なのでみんな一定のレベルは満たしてて、意思の疎通が早い
    • って就活でアピールされたんですが、これはガチでした
  • お金を稼ぐ構造を持ってる
    • 研究→製品化→各国で登録→工場で生産の一貫したプロセスを自社で持ってて、すごいなーと思いました
  • 幹部が情勢を捉えようと頑張ってる
    • IoTとかドローンとかやってるっぽい。社長は年始挨拶でソサエティー5.0って言ってました
  • 残業代がきっちり出る
    • 当たり前なんですけど
    • ソフトウェア開発だと裁量労働制になってるところが多いので……。

同期、同僚、部署のみなさんには大変お世話になりました。至らないところが多かったと思いますが、本当にありがとうございました。

やってたこと

11か月ぐらい業績管理をやってました。P/Lを作ったり、経費をまとめたり、数字の表を見て「利益がこう動いてるのはなんでだろ~」って考えて原価表を読んだりする仕事です。(ERPからはみ出した業務が全部Excelで行われてて、最大30シートぐらいあるエクセルファイルを10個ぐらい日常的に扱ってたのは辛かったです)
ブラックボックスになりがちなERPではなくExcelでも数字を扱ってたおかげで、お金の勘定がちょっぴりできるようになったかな。あと工場の雰囲気とか世界の農薬動向とかも勉強させていただきました。

あと大企業のプロジェクトの承認プロセス(Ringiってヤツです)とかも肌身で知れたので、これからこういう会社を相手にして商売するのもできそう。

これから

友達と色々試してみたいことがあるのでいろいろやってみます。おもしろそ~。

今までと違って「平日は何時に終わるかわからんから夕飯行けへん」「土日は疲れて寝てる」みたいなのがなくなるのでご飯行きましょう。気軽に誘ってください。
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私事ですが目黒に引っ越しました。今の時期は桜がキレイで、もうすぐしたらいっぱい毛虫を見れると思います。都会って便利ですね。

漫画『シェア・ユア・ライフ』のダウンロード販売を開始しました

こんにちは、ひでシスです。

コミティア122で『シェア・ユア・ライフ』を頒布しました。このダウンロード販売をboothとnoteで開始しました。300円です。

hidesys.booth.pm

 

表紙はこんな感じ。

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人間が生きるのに必要なものは実はすごく少ない。すべてを所有しようだなんて考えは傲慢でコストが高くついて非効率だから、すべてを分割して残りの分は他人とシェアして欲しい。そういう想いを伝えたくて、漫画を書きました。

 

OLの今風の生活を描いています。読んでいただいた方からは様々な意見を頂いています。

 

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お金で解決できることはお金で解決した方がいいのかも……。

 

 

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私たち労働者は「自分の時間を切り売りして」生活を送っています。なら、居住空間やプライベートも切り売りしていってもいいんじゃないでしょうか。

 

 

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ダウンロード場所について

どの場所でも300円です。

boothはこちら

zipとpdfで頒布しています。

hidesys.booth.pm

noteはこちら

スマホで読みやすいかも。

note.mu

note.mu

 

ではでは。

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阿部洋一『 #それはただの先輩のチンコ 』、あるいは切断されたペニスをめぐって

こんにちは。男根妄執者のひでシスです。

 

阿部洋一の『それはただの先輩のチンコ』が先日公開されました。男性からペニスを切り取っても再生するこのに気付いた女子たちが、例えば先輩のペニスを切り取ってペットにしてみたり、妄執的に様々なちんこを集めてバスタブ一杯に貯めてちんこに埋もれてみたりする話です。

webcomic.ohtabooks.com

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阿部洋一といえば、セーラー服を着た女子が顔を赤らめながら股間に生えた蛇口を「ガチャガチャ」と音を立てさせて公園の水道の蛇口と絡ませるシーンですとか、そういう男根を想像させる描写をよく使ってました。ぼくとしてはこの漫画を読んで「ついに来たか~~」という感じです。

 

切断されたペニスをめぐって

「ペニスの切断」と聞くと、最初に頭に浮かんでくるのは去勢不安ではないでしょうか。歯の付いたヴァギナとかのイメージです。ただ、阿部洋一の『それチン』については、エディプスコンプレックス的な去勢恐怖に着眼すると論点がぼやけてしまいます。

 

阿部洋一『それチン』で注目すべきは、「強い男性像」から「性的な男性の部分」を切断し、弱い(踏めば潰れてしまうような)性的なオブジェクトとして、性の主体となった女性の所有物とする、という構造でしょう。

性的に強いこと・力が強いことは古来から一体のイメージとして「強い男性像」として捉えられてきました。しかし相対主義と男女平等の進んだ現在においては、「男性の力強さ=性的な主体性」の等式は徐々に地位を失い、今やむしろ現実社会において弱い男性に対して自らを勇気づけるファンタジーとして供給されるのみという状況に落ちぶれています。では女性が性的な主体性を手に入れたとき、どのように描写されるのか?という話ですけど、内田春菊オードリー・ヘプバーン的な「自分の力で生活を営み、自分の人生段階に応じて最適な男性をパートナーとして乗り換える」だったり、もしくは「自分の身体に挿入される≒自分を支配するペニスを否定するために、ペニスを切り取って自分のものとする」だったりするのかなと思います。

 

『それチン』では第1話で帰巣しようとしているペニスを無理に引き留めてペットとして飼う描写に、女性の性的な主体性→性的な男性がオブジェクトとして扱われることの構造が見て取れます。そしてそのペニスは高熱を出して寝込む。阿部洋一の描くペニスは従来のペニスの熱くて鉄のように固いイメージと違い、柔らかく、小さく、弱いものです。性的な主体性に欠けた男性。女性の意思に翻弄される男性。

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第2話では、「男性のペニスを切り取ってペットとして扱うこと」が社会的に少しずつ流行している描写が出てきました。もはやそこに人間としての男性は存在しません。添い寝フレンドのその先の世界です。

 

私たちは今、労働時間を切り売りして、日銭を稼いでいます。これも切断です。AirBnBで、使っていない間 自分の部屋に他人を泊めてお金を稼ぐこと、これも切断です。思えば、人類の最初の労働は売春でした。私たちの時間を、居住空間を、性的な私を切断して他人に提供することは避けられない流れなのかもしれません。

 

さて。せっかくなので、ペニスの切断史というか、切断されたペニスの表現史について、ひでシスと一緒におさらいしましょう。

 

意思を持って這うペニス

榎本俊二『えの素』

www.amazon.co.jp

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意思を持って這うペニスといえば、まずえの素でしょう。『これチン』で描かれていた、切断されたペニスの帰巣本能の描写も出てきます。榎本は天才です。

 

てる『ちん兄ちゃん』

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[R-18] 【漫画】「【創作R18】ちん兄ちゃん」漫画/てる [pixiv]

商業ではないですし、かつ切断ではなく人間が陰茎に変身する話ですが。ペニスになった主人公がディルドとして使われて萎びてしまう描写に興奮しました。

 

切断されたペニス

現実の世界ではラスプーチンの巨根展示阿部定事件不倫弁護士陰茎切断事件などがありますが、フィクションだとどうでしょうか。

x51.org

阿部定事件 - Wikipedia

gendai.ismedia.jp

師走の翁『精装追男姐』

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ぼくの一押しはこれです。

かわいい男の子がちんぽをイジメっ娘たちに切断されてしまう話です。切断されたペニスの間隔が本人と繋がっているリンク型です。さまざまにペニスが使われていく中で、ペニスに経験値が蓄積され、それが持ち主の手元に戻った時に驚くべき進化をもたらす。みたいな話でした。

ストーリーライン的にはやはり男性にペニスが戻ることで男性が強力な(性的な)主体性を取り戻す、という感じなんですが、それはまぁエロ漫画なので仕方ないかもしれません。

 

はらだ『ポジ』

薬を飲むとちんちんが取れて、搾乳機に入れられて「止めてくれ〜〜」ってなる漫画が収録されてました。ペニスが本人から切断されてモノとして扱われる中で、ペニス自身の本人に対する他者性がどのように暴かれるのかと期待して読んだんですが、そういう描写は薄かったですね。

 

ワープするペニス。どこにでも出現するペニス。

切断描写がなくてペニスが生えてくる系だとこっちです。AVだと飛び出る生チ○ポが人気の○○シリーズが有名でしょう。

 

かるま龍狼『非日常性バイアス』

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非日常性バイアス (バンブーコミックス COLORFUL SELECT)

アイディア賞です。ぼくもこういう特殊能力があれば、仕事中にオフィスで机の上にペニスをいっぱい生やして、林を作りたいですね。

 

magifuro蒟蒻『ちんちんを踏む話。』

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www.pixiv.netいや~よかったですね。足で踏むのはモノ扱いの中でも上級といった感じですので。magifuro蒟蒻氏はわかってます。ただペニスを自由に取り外して持って行けないところが残念でした。ただ生えてるだけだと、キノコ採集みたいな自然現象っぽさが出てしまうので。

 

最後に

ちょっとだけ宣伝します。ひでシス『愛根妄執』は事情により絶版状態にあります。今読めるひでシスのペニス漫画だと『月3万6千円の部屋には陰茎が住んでいた。』とかでしょうか。かなり古いですが。ペニスをいっぱい飼育するペットショップの話かとかも書きたいと思ってます。

 

今度の11月23日(祝)東京コミティアにて新しい本を出します。

女性の肉体にはペニスが存在しません。でもペニスの持っていない女性が性的な主体性を持ったら……。ネックレスやストッキングの線で分割されたその身体に、去勢されたペニスが現れることになります。私たちの時間を、居住空間を、性的な私を切断して他人に提供することは避けられない流れとなった世の中で、どのような生存戦略をとるのかが今 問われています。

 11月23日(祝)東京コミティア、スペースは「く28b」です。是非遊びに来てください。

 

 

動物園とストリップとセックスできる猫

今週末に上野動物園に動物を見に行って、それからストリップ劇場に人間を見に行った。その話。

https://twitter.com/hidesys/status/916472579895857152

 

友達が関西から来ていたので一緒に遊びに行った。

https://twitter.com/hidesys/status/916472579895857152

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上野動物園は東京都が補助金を出しているみたいで、入園料が600円と非常に安い(ただ、天王寺動物園は500円だけど)。年間パスは2400円だ(天王寺動物園なら2000円)。1シーズンに1回来たら元が取れる計算だ。

 

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まず初めに目に入ってきたのは、パンダの檻をの周りに群がる人間だった。パンダはやはり人気があるらしい。

パンダを単体で見て、「そんなにかわいいか? 世間の評価に騙されていないか?」と思う。お尻の毛だって土で汚れて薄茶色になってる。関西では和歌山みたいな田舎ですら見れるパンダを関東の人間は嬉しがって見ている。でもWWFロゴマークもパンダだし、パンダを可愛いと思うのは世界共通の発想なのかもしれない。

 

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パンダの近くには鳥の展示スペースがあった。タカとトンビは身体の大きさが違うだけで同じ種らしい。

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鳥は脳みそが大きくなくて、餌や光や音に反応して動くので、よくできた自動人形に思える。私は実家で犬を飼っていたんだけど、彼女は賢かった。家族内の人間関係を理解していたし、私たちが彼女にした指示もちゃんとわかっていた。哺乳類は脳みそが大きいので、知性がある。

 

奥へ進むとライオンの展示スペースだ。右側の窓からはライオンが見えなくて、友人に「人の集まっているあの別の窓のところへ行こう」と言われたんだけど、「ライオンをこうやって見に行くことでこれからの人生に何かしらプラスがあんのか?」と軽口を叩いた。

左側の窓を覗き込むと、ライオンが1匹だけ、放育場の真ん中に張り合いの無い顔をして座っていた。ここは外敵の心配がないし(百獣の王なんだからサバンナでも外敵の存在はないか)、餌の心配もないし、日々やることが無くて暇なんだと思う。

奥へ進むと、またかなり広いスペースにゴリラがいた。おっさん座りをして、暇そうに膝に付いた藁指でつまんでは取り除いている。それ以外に何もすることがないのだろう、彼らが閉じ込められている動物園という場所は衣食住が保障された空間なので。

 

私がゴリラのように動物園に入れられて衣食住を保証されたら……、難しい哲学の本とかを読んで日々を過ごすと思う。メガネをかけて、ポニーテールにして、勉強机に座って机の上に積まれた本に挑む。昔の動物園では黒人や原住民を展示していたと聞く。あの人たちはどうやって暇をつぶしていたんだろうか。

というか、そもそもゴリラに「暇」を理解する知性はあるんだろうか。お腹が空いた、腰が痛いなどの不快の概念は、互いに別のものとして理解されているんだろうか。私たちには言葉があるから概念を分けて理解し、操ることができる。でもゴリラは……。

とか友達に話していたら、「ゴリラは喉の構造的に複雑な言葉を発することができないけども、歌を歌うような動物はある程度様々な概念を脳の中で操っているって何かで読んだことがある」と言っていた。 f:id:hidesys:20171007131241j:plain

 

ゴリラの檻を通過すると、広い憩いの場のスペースに出る。歩き疲れたのでベンチに座って少し休憩をする。足元をハトが歩いていた。

ゴリラなんて十分賢いのだから、ジャングルなんて言わずも東京のコンクリートジャングルの中でも生活していけそうな気がする。ハトは都市ならどこの公園へ行っても見ることができる。カラスは完全に都市に適応して野生になっている。ドブネズミだってそうだ(この前新宿ですごく大きいドブネズミが道を走っているのを見た)。インドでは野生の牛が汚い繁華街に住んでいて、ゴミを漁って暮らしている。

 

動物と人間の関係には様々な姿がある。

人間の移住区域外でありのままの姿で生活をする(そかしそれは意図的に設定された自然保護区なのかもしれないが)、農村や都市など人間が人間の為に環境を改変した空間で人間に管理されずに野生として暮らす、人間の経済的利益のために全生活を統制された家畜になる、愛玩の対象としてペットになる、半ば研究・半ば興行のために動物園や水族館で飼われる、医療の発展のために実験動物になる……。

もちろんこれらの関係はスパッと明確に切断される違いがあるのではなく、例えばロシアのシベリアで放牧されているトナカイたちの群れは野生の群れと混じり合っていて個体が行き来していたりする。

 

人間と人間の関係はどうだろうか。

人間は社会的動物というだけあって、社会に包摂されている。動物園のゴリラは衣食住の心配をする必要がないが、私たちは衣食住を得るために半ば強制的に労働に従事させられている。これが資本主義のシステムというものだ。食を得るために労働に従事させられている存在といえば、水族館で芸を仕込まれているイルカもそうである。

 

www.pixiv.netそういえば状態変化界隈でOPQというペンネームで活動している人が居るのだけど、その人の最新のショートストーリーがそんな話だった。寂れた水族館で働いていた女性が、客寄せのために人魚になる手術を受けるように懇願される。人魚になるとエラを付けた関係で言葉を喋れなくなってしまう。最初は従業員たちも自分が元人間であることを認識していてくれるのだが、スタッフが変わっていくなかで引継ぎが上手くされず、いつの間にか自分が人間であったことが忘れ去られてしまう。餌も人間等の定食ではなく生魚になってしまい、イルカと同じように芸を仕込まれてしまう……。といったストーリーだった。性的にすごく興奮した。

この話でもキーになるのは「言語」である。

 

私の住処には少し部屋にスペースが余っている。ここにペットを飼うことができるだろう。中学生の頃は金魚をペットとして飼っていた。でもペットを飼うのなら、犬のようにどうせなら知性があって人間の言葉が分かる方がいい。ハムスターは人間の言葉を理解できない。一番人間に近くて心情もよく理解できるのは人間だ。でも人間を飼ったら食費が大変そうだ。配合飼料でどうにかならないかな? 食べなかったらご飯抜き。動物園のイルカみたいにちゃんとしつければ、人間でも配合飼料で飼うことができるかもしれない。人間の言葉を理解して、セックスのできる猫。

 

芸が仕込まれた人間。ということで、上野動物園を見終わった後は近くの浅草にストリップ劇場を観に行くことにした。イルカと同じで、衣食住の為に芸を仕込まれている。

 

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そうして私たちは上野駅から銀座線に乗り、浅草のロック座に来た。日本一のストリップ劇場らしい。バックダンサーがいたりしてすごいとのこと。大人は1人5000円(カップルだと8000円)だ。

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席数は150席ぐらい。大阪の東洋ショーや京都の東寺よりも広くて大きくて、舞台の段も高かい。

 

今回は「1001 nights」がテーマとのことで、全体的にアラビアンナイト風の劇となっていた。私はアラビアンナイト風の衣装が好きなんだけど、テーマのわりにあんまりそういう衣装は出てこなかったので少し残念。

始めの演出は本当に綺麗だった。影絵みたいな感じで女性が奥手踊りながら脱いでいく姿がスクリーンに映されていて、時折手や足などをスクリーンの隙間からこちらに出して手招きをしたりする。それ以降の踊りは、東洋ショーのものとあまり変わりがなかった。

 

女性が舞台から出てきて花道を通り、舞台真ん中の円形のステージ(ベッドと呼ばれる)に横たわる。ゆっくりと踊りながら衣装を脱いでいく。でも足や胸に巻いたネックレスは外さない。

ストリップを観るといつも思うことがある。こういう性的な裸体というのは、強いライトで照らされていて毛穴が無くてツルツルで、ネックレスで分割線が作られていて、まるでマネキンのようだ。数多の視線が女優を包み込む。数多の期待を込めた視線に照らされた彼女は、自分で自分の性感を高めるようなやり方で肉体をほめたたえる。女性の身体の動きがスピードを落とすほどエロティックになっていく。まるで無重力空間に肌色の性的なオブジェクトがゆっくりと浮かんでいるようだった。ここに現実のセックスは存在しない。

 

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ストリップで踊っているのは20-30代ぐらいの女性だ。顔立ちもSKE48ぐらいからモー娘。ぐらいの感じの人たちで、わりとレベルが高かった。

ストリップを観に来ているのは30代がちらほらで50代~が主要層という感じだった。大阪や京都だと60代とか70代とかの、パソコンが分からなくてエッチな動画を見ることができなさそうなおじいさんが多かったんだけど、東京はまだ活気があって客側の年齢層も若い。

女優と観客の関係だけど、大阪や京都のストリップでは手拍子もしっかりやったり拍手も盛大だったり、衣装にお金をねじ込む時間があったり、ボール(物理)をお客さんと女優で投げ合ったりすることがあったり、あとオープンタイムといって女優と一緒に写真を撮ってもらえる時間もあったりして客と女優の間隔が近いと思う。ロック座は、その舞台や花道の段が関西のストリップに比べて高いことに象徴されているように、あまり近しい感じではなかった。まぁでもこれぐらいがアイドルと客の距離なのかもしれない。関西のストリップの方が幾分地下アイドルに近い。

 

お客さんは何を見にストリップに来ているんだろうか。もしそれが「女性の裸」でしかないのなら、女優側は苦痛だと思う。まるで動物園で檻に入れられた動物を、人間がマジマジと観察する関係のようだ。誰だって私のありのままを客体として切り離した上で消費されるのは気分の良いものではない。なのでストリップはダンスを取り入れることで、演技を見せている私・ダンスを見に来た俺たちといった関係性の幻想を作り出すことにした。観客は女性の裸を見に来ているのではなく、ドキドキやワクワクを楽しむために来ている。

 

衣食住のために芸を強いられているという意味では、イルカも私たちも変わりがない。この前、上司の前で上司の判断を「たしかにこうやった方が○○が△△になって、よいですね」と答えたら、「西柿さん、そんなにサラリーマンしなくていいんだよ」って言われた。

ディズニーのダンボのように、サーカスで訓練される中でプロ意識を持って、スターになるのが正解なんだろうか。ダンボが空を飛べたのは生まれつき耳が大きいという生得的な要素によるものだった。ナルトでも結局 天才であることが大切だと説いていた。ダンボのように耳が大きくない私たちはベッドの上で服を脱いで裸体を見せつけることしかまだ知らない。私たちはセックスできる猫として生きる方が楽なのだろうか。カラスから「この魔法の羽を持っていれば空を飛べる」という暗示を掛けられたところで、飛ぶことができるのだろうか。