ひでシスのめもちょ

今度は箱根登山鉄道に乗ってみたいと思っています

警察署前を無許可で占拠、アメリカ大使館前に数万人集結。香港デモのリアルな現場

香港の「逃亡犯条例」改正案が撤回されたが、大規模デモは収束の兆しを見せない。香港のデモ参加者は一体どういう気持ちで何を求めてデモを続行しているのだろうか。2019年9月6日(金)から9月8日(日)にかけて香港へ行ってきたのでその様子をお伝えしたい。

香港の人たちに共感や連帯を示したい、でも香港の人たちとナショナリティも歴史的経緯も共同体も違うぼくは同じ立場ではいられない、だから彼らと触れ合うのはデモを見に来ている一瞬だけだ。「外国人が海外のデモに参加するのは、内政干渉なのでは」「もし捕まったらスパイ扱いされたりして国際問題になるのでは」というツッコミあると思うけど、グリーンツーリズムのようなものだと理解してもらえるとうれしい。(グリーンツーリズムとは、旅行者が農山漁村に滞在して農漁業体験を楽しみ、地域の人々と交流を図るツーリズムである。グリーンツーリズムだって、農産地が農業で食っていけなくなったときに絞り出す悲鳴のようなものだ)

渡航

2019年9月6日(金)。

f:id:hidesys:20190916190538p:plain
香港エクスプレス 羽田→香港
香港エクスプレスで羽田←→香港の往復便がチケット代・燃油サーチャージその他合わせて3万円だったのでいてもたってもいられず予約してしまった。東京から大阪へ往復するのと同じぐらいの値段しかしない。航空チケットが安いのは香港デモが長引きもう3ヶ月に入った影響……なわけでななくて、そもそも香港エクスプレスがLCCだから安いだけだったりする。

f:id:hidesys:20190916190926p:plain
香港国際空港にはもうデモ隊の姿は見えなかった
8月9日〜14日はデモ隊が空港を占拠していたのでまだ残党が残ってるかな?と期待していたのだけど、特に誰もいない。
インド系の従業員2名画KITCHENって書かれてあるところから姿を表して、「お前荷物持ちすぎとちゃうか? ワシが半分持ったるで」「いやええよ」って英語で話してたのを見て、「アジアの国際都市香港に来たぞ〜〜!」という気分が高まった。

f:id:hidesys:20190917014627p:plain
香港の目抜き通り、旺角駅周辺
香港は古くからの高層ビルが立ち並んでいていい。地代は世界一高いらしくて、例えば写真右手に見えるボロボロのビルでも1住居1億円は下らないと思う。億ションだ。

f:id:hidesys:20190917015053p:plain
安宿が集まる重慶大厦
宿は Booking.com で適当に取ったら、思いがけずあの有名な重慶大厦(チョンチンマンション)の一室だった。2泊2ベッドで1万円ぐらい。当初は2泊で7000円の部屋だったのだけど、あまりにも狭かったので「窓のある部屋に変えてくれないか?」と交渉して追加で200HKDを支払った。

2019年9月6日(金) 旺角警察署周辺でのデモ

f:id:hidesys:20190917023341p:plain
位置関係。旺角警察署は太子駅が最寄り、南に旺角駅、油麻駅、佐敦駅、そしてホテル最寄りの尖沙咀駅の順になっている

始まり

夕方(20時ぐらい)から旺角(モンコック)警察署前で自然発生的に人が集まって警察への抗議活動をやっているという情報をキャッチしたので足を運んでみる。すでに警察署最寄りの太子駅は出入りが規制されて地下鉄では入れない。なので一つ南の旺角駅からアプローチ。今回は届出がされたデモではなく、インターネットで声を掛け合って人が集まったらしい。おかげで公共バスは道に溢れかえった人たちで身動きが取れなくなっている。

youtu.be
市民がレーザーポインタで照らして目潰しをしているのが旺角警察署の建物だ。なんでも、8月31日のデモの帰りに太子駅(旺角警察署最寄りの地下鉄駅)内で警察が帰っていくデモ隊に暴行を加えて「人が死んだのでは」という話になっており、「警察署に監視カメラ(CCTV)の録画を公開せよ」と要求しているらしい。デモに参加している人がぼくに警察が市民に暴行を加えている動画をFacebookを使ってみてせてくれた。彼は動画を解説しながら怒ってた。

f:id:hidesys:20190917020804p:plainf:id:hidesys:20190917020833p:plainf:id:hidesys:20190917020843p:plain
旺角警察署前、太子駅に貼られたデモのビラ
太子駅の駅出入り口は抗議のビラで埋め尽くされていた。

参加者の人と話していると、もはや香港市民と香港警察の信頼関係は完全に破壊されているらしい。今回の一連のデモが起こるまで、香港市民はなんだかんだ言って「香港警察は市民を殴らない」と思っていたんだろうと思う。実際は違ったわけで、警察は催涙弾も撃つしビーンバッグ銃も撃つ。
なんだかこの辺の話は怪しい噂みたいなのもあって、警察の幹部にいる英国人が弾圧を強めてるんではとかなんとか。
www.newsweekjapan.jp

「逃亡犯条例が次の月曜日に撤回されるのにデモをやり続けるの?」という質問に対しては「Too Late」と返された。「『遅すぎる』ってどういうこと? 具体的にはどうしていくの?」との質問には、「状況は変化し続けているのでわからない」とのこと。「香港の問題に興味を持ってくれて嬉しい」とも言われた。

挑発

21時半ぐらいになるとちょっとづつ情勢が変わってくる。今まではただ人が集まって警察署のベランダに向かってレーザーポインタを照らしながら声を上げるだけだったが、ぼちぼちデモ側の黒シャツの人たち(勇武派)がバリケードを作り出したのだ。
youtu.be

自然発生的に集まってきた人たちも、警察署のビルを見つめながら何かを期待しているように動かない。「『何か』が起きるまで解散しないぞ」というような、倦怠感と熱気が渦巻いている。デモ参加者はすでに2ブロック分以上の人数が集まって、一帯の道が歩行者天国になっていた。

黒シャツ隊の人たちは、「何か」が警察署前で起こったときに群衆事故が起こらないよう、参加者が過密になりすぎないように道路の中央分離帯に立ってデモ参加者を誘導していた。ぼくも最前線の雰囲気がそろそろ悪くなってきたので、警察署からワンブロックだけ離れた位置に退避していた。その時、


どうも最前線で催涙弾が撃たれたようで、デモ参加者が急に逃げ出した。群集心理というのは恐ろしいもので、こういうときに集団のみんなが走ると危ないのだけども、やっぱり若干の人が走ってしまう(上の動画も走った部分だけ切り取った)。黒シャツの人たちは手でバッテンの印を作って、「とりあえず止まるように」との合図を出していた。参加者も「止まって!」と声を上げる。

退散

眠いし催涙弾が撃たれたのを確認できたしもういいかな、と思って、南方向へ退散。旺角駅から地下鉄に乗ってホテルに帰ろうかな、と一瞬思ったのだけど、香港警察は前回デモ参加者に対して地下鉄駅構内で催涙弾を発射するという蛮行を行った実績があるので、逃げ道のない地下鉄ではなく野外のバスか徒歩で帰ることに。

実は久しぶりに走ったせいで膝を負傷してしまった。曲げるだけで痛い。勘弁してくれ。旺角駅まで来たので、近くのマクドに入ってミニッツメイドを飲んで休憩した。地下店鋪だから空調は効いてそうだった。焦っていたのでマクドの写真はない。
休憩が終わったのでさて帰るか、と思いつつ店を出ようとしたら、地上へつながる大きな階段はシャッターが堕ろされて封鎖されていた。小さな階段の出口では、マクドの店員が不安そうな顔をしながら外の通りを眺めている。なんだろ〜と思って外へ出てみると、前線が旺角駅まで撤退してきていた。道もいつの間には歩行者天国になっている。マジか。
youtu.be

流石にヤバイので早めに撤退する。とにかく南に歩いて、油麻地駅、そして佐敦駅へ。ここまで来るとまだバスが走っていたので、飛び乗ってホテルへ。

帰還

帰ってからテレビを付けるとニュースになってた。結局前線は油麻地駅まで下がってきていたみたい。早く帰ってよかった。
f:id:hidesys:20190917022934p:plain

あのあと最前線ではわりと元気にやり合ってたみたい。
www.afpbb.com

膝の痛みについては重慶大厦のインド人商人に相談して「ペインキラーだよ」なる精油をもらった。東南アジアの人たちって、タイガーバームもそうだけど、こういう精油好きだよね。

f:id:hidesys:20190917025920p:plain
痛み止めの精油
精油を膝に塗って眠りについた。

後始末

翌日、旺角警察署に再び行ってみることにした。

f:id:hidesys:20190917030257p:plain
デモ翌日の旺角警察署前。「行方不明になった後亡くなった」とされるデモ参加者に対する献花が行われている
f:id:hidesys:20190917030518p:plain
アメリカ大統領戦でオルタナ右翼ミームとして使われたカエルのペペが、今は香港で逃亡犯条例デモに参加している

旺角警察署前の大子駅交差点だけデモの跡があるが、それ以外は普通に日常だった。
面白いのは、アメリカ大統領戦でオルタナ右翼ミームとして使われたカエルのペペが、今は香港で逃亡犯条例デモに使われていること。ミームを上書きする作戦だ。

2019年9月8日(日) アメリカ大使館前デモ

今回のデモはちゃんと届出をしているし、事前に計画されたものだから日程表にも載っていた。


アメリカ大使館は香港島の方にある。地下鉄で中環駅まで移動して、デモの参加列に加わった。

集合・チャーターガーデン付近

f:id:hidesys:20190917031356p:plain
アメリカ大使館前デモ 始点のチャーターガーデン
アメリカ大使館へ声を上げるデモということで、広東語だけではなく英語を使っても行われるのでわかりやすい。

デモの真っ最中

マジで大量の参加者がぞろぞろと道を動いていく。暑い。途中でおじいちゃんが具合が悪くなってて、手を引かれて道から抜けようとしていた。

f:id:hidesys:20190917031853p:plain
手をパーにして掲げるポーズは「五大訴求は不可分だ」を意味する
この手をパーにして掲げるポーズは「五大訴求は不可分だ」という意味を表しているとのころ。『逃亡犯条例(送中法)の撤回』はすでに決まったのだけど、その他に『デモを暴動と呼んだことの撤回』『デモで逮捕された人の釈放』『警察の行為を調査する第三者機関の設置』『普通選挙の実現』がある。日経新聞の記事が詳しい。
www.nikkei.com

とにかくぞろぞろと声を張り上げながら無限に歩いた。警察がいる場所では警察に向かって「黒警!(ヤクザ警察!)」と参加者が罵倒する。やはり警察との信頼関係はボロボロになっている。

デモ参加者の人と雑談をしたのだけど、やっぱりFacebookで出回っている、警察が市民に暴力を振るう動画を見せられた。今回のデモでは、「地下鉄駅でデモ参加者が警察に暴行を加えられて、その後行方不明になっている。死んだのかも知れない」的な、ある種フェイクニュース的な言説をデモ参加者が共有しているようだ。
ただ実際にデモ参加者に死人が出ていることは事実だし、今更フェイクニュースが真実であれ創作であれ関係ないように感じれた。構図は、「警察がヒドいことをしたニュースがシェアされた来た→からデモ参加者が怒っている」のではなく、「デモ隊に警察が暴力的な圧力を加えた→警察と市民の信頼関係が破壊された→からデモ参加者が怒っている」のだ。

デモの帰りに

デモの後はやはりマクドミニッツメイドを飲むに限る。汗もたくさんかいたしね。


で、そのあと地下鉄で帰ろうとしたら、なんか過激派が中環駅で暴れているとのこと。野次馬しに行こう。

出発地で暴徒化する勇武派

中環駅まで遡って歩いていったら、地下鉄の出入り口が破壊されててウケた。


やっぱり数万人レベルの人が集まると「やったるぞ!」勢が出てきて暴れまくりますよね。面白い。

といっても暴れ方はかなり可愛くて、ひととこでオイルライター缶に火を付けてボヤが起きた!と思えば、ババーッと「Press」の黄色いベストを着けた記者が集まっていって写真を取って、3分後ぐらいには消防車が来てボヤを消火する。シャッターチャンスは一瞬だ。
youtu.be

デモ隊も同時多発的に火を着けて物を壊しまくれば収集がつかなくなることは理解しているとは思うのだけども、そこまで「全てを破壊し尽くす」目的でやっているわけではない。所詮小競り合いだ。

今回の数万人のデモ参加者の大半は平和的にデモに参加して平和的に帰っていった。それなのに参加者の99%が体験しない投石や放火の現場に、「Press」の黄色いベスト(これを着ていればデモ隊・警察の双方から攻撃されることはないらしい)を着用して近づいて、バイアスのかからない絵を撮れるのだろうか。統率者のいないデモでこんなにたくさん人が出てきているんだから「やったるぞ!」勢も混じっていて当然だと思う。日本でだって渋谷でハロウィンで軽トラをひっくり返してたじゃないか。むしろ共通の怒りを共有しているデモ参加者の内ほんのひと握りしか破壊活動に勤しんでいない、しかも破壊目的ではなくてアピール目的の破壊活動にすぎないのは褒められたものだと思う。

デモは、引率の先生がいる小学生の遠足ではない。

ちなみに今回のデモはこういうふうに記事になっていた。
www.afpbb.com

香港デモのこれから

参加者たち

学生を中心に若い人が多かった。中年の方やご老人も多少混じっている。ただ基本的に中華系の顔つきの人と、ほんの少しだけ白人が混じっているにすぎなくて、香港のパスポートを持っているはずのインド系の人たちは見当たらなかった。なお香港で家政婦として働いているインドネシア・フィリピン人たちも見かけることはなかった。

人民解放軍は介入するか?

現状をみる限り中国人民解放軍は介入しないと思う。何故なら、現状警察力だけで完全にデモ隊をコントロールできているから。
9月6日の旺角警察署前デモを見ればわかるけども、催涙弾が出ただけでデモ参加者の大半か蜘蛛の子を散らすように退散した。こんな状態で軍の火力を使用すれば国際世論が黙っていないだろうし、そんなリスクを中国が犯すかな?と思う。

デモの行く末は

当初の目的であった「逃亡犯条例改正案の撤回」はすでに成し遂げられた。でもまだデモは続いていて、デモ参加者は「五代訴求」を今後も求めていくという構えをとっている。
やはり逃亡犯条例の撤回が遅すぎたせいで、その間のゴタゴタで政府・警察と市民の信頼関係が破壊されて、まだ市民は怒っているという雰囲気を感じた。

警察の暴力によってすでにデモ参加者側に死人は出ている(ことになっている)。たがデモ隊側の暴力はまだアピールのための破壊活動であって、警察権力を殺すための本当の暴力ではない。
黒シャツを着た勇武派のデモ参加者たちがスモーク張りのハイエースからぞろぞろと出てくるのを目撃したのだけど、彼らがセクト化して内ゲバを始めたりするとマズいと思うけど……。

今回のデモを見学しに行ってみて強く感じたのは普通選挙の大切さだった。人口740万人程度の国で120万人が集まってデモをするようなことが起きたら、普通の民主主義をやっている国だったら一瞬で内閣不信任案が提出されて政権が交代して、法案が撤回されている。でも香港では3ヶ月もデモをやり続けないと、ほとんど自傷的ともいえる破壊活動にまで発展したデモをやり続けないと、条例案の撤回を勝ち取ることができなかった。
5年前の雨傘革命では、普通選挙は親中華のみに立候補を許可するというやり方で骨抜きにされたままだが、このまま五代訴求を押し通すことができるのだろうか。

f:id:hidesys:20190917045522p:plain
Live Free or die. ここにもペペがいた。
旺角警察署前のデモで感じられた「『何か』が起こるまで解散しないぞ」という期待が、倦怠感と熱気と混じり合って香港を覆っている。